序 24



目を開けた先。まだぼんやりとした視界に映ったのは見知らぬ天井だった。
木目の模様が違う。自分の部屋の天井には、あんな丸い円のような木目はなかったはずだ。
ここは一体どこだったか。しばらく貴舟は布団に横たわったままぼーっとして天井を見つめる。そうしている内に、だんだん意識と記憶が手と手を取り合って頭の中に戻ってきた。ああ、そういえばここ新選組の屯所だっけ。
ついでに、今しがたまで自分が見ていた夢の内容も頭に蘇ってきた。昨日はすっかり忘れていたが、今日ははっきりと覚えている。
夢の内容を反芻し、貴舟は深々と息を吐き出すとごろりと寝返りをうった。
あれはまだ自分が【椿屋】に来たばかりの時の記憶だ。あのときも今と同じような状況だった。はじめて生家を離れて、こんな風に一人で見知らぬ部屋で寝起きし始めて。でもそれがどことなく心細くて。気を紛らわせるために庭に出ていたら師匠がいたのだ。
貴舟は横になった状態からちらりと上を見上げる。そこには変わらず見慣れない天井がある。布団も自分がいつも使っているものではなく、部屋の空気も身に馴染まないものだ。
昔も最初のころはそうだったのに。
貴舟はもぞりと布団にもぐりこんだ。いつの間にかすっかり【椿屋】が自分にとって帰る家になっていたことを思い知らされた気がした。そして、そこから離れて寂しいと感じている自分がいることも。これではまるで小さな子供だ。
でも、寂しいと思う気持ちはなかなか抑えられなかった。
閉じた目裏に大きな背中が浮かぶ。

「…師匠、どこにいるんだよ」

ぎゅっと目をつむる。かすれた声で呟いた言葉は、青白い光に包まれた部屋の中で小さく響いて消えていった。

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