序 26


「だははははは!!!で、今度はたんこぶか!お前もついてるのかついてないのか分からねえやつだな平助」
「笑い事じゃねぇってよ、新八っつぁん!」

「ああ、悪りぃ悪りぃ」ひーひーとひとしきり笑った後、永倉は笑いすぎて目じりに浮いた涙をぬぐいながら言う。しかし顔はまだ笑い足りないというようように、口の端がひくひくしている。言っていることと顔が一致していない。
からかわれたことにむくれながら、藤堂は額をさすった。
もんどりうってどこかでぶつけた額の腫れは、まだひいていないようだった。前髪に隠れているとはいえ、ぽっこりとしたでっぱりが情けなかった。こんな姿で外に出たくはなかったが、昼は自分の隊の巡察があるのでそうも言っていられない。
−−で、気にしつつ巡察に出たら、同じく巡察に出ていた永倉に出会い、冒頭のやりとに戻るということである。
絶対からかわれるって分かってたから顔合わせたくなかったってのに…。
藤堂は尖らせていた唇を解く。解かれた唇から漏れたのは、溜息だ。

「それに俺、結局謝れなかったし…」

何よりまた貴舟に恥かしい思いをさせてしまった自分が、情けなかった。
沈んだ顔をする藤堂に、さすがの永倉も今度こそ笑いをひっこめた。ぽりぽりと頬を指先でかく。
と思ったら次の瞬間背中に強い衝撃を受けた。

「どわっ!!」
「まぁ、何だ。今回は間が悪かったけどよ、また仕切りなおして行けよ!」
「新八っつぁん痛え!!」

からからと笑う永倉をねめつけながら、どつかれた背中をさする。ひりひりする。ったく馬鹿力なんだからよ。
唇をとがらせる。でも藤堂は永倉のその行動を内心ありがたいと思っていた。
痛い励まし方ではあるけど、切り替えるきっかけにはなったから。
普段は明るいことが売りな自分だが、落ち込むときだってある。そういうとき、新八っつぁんと左之さん二人の存在は本当にありがたかった。
そこまで考えて、藤堂は自分と永倉含め隊内で"三馬鹿"と呼ばれているもう一人のことを思い出した。

「そういや、左之さんは?」
「お前聞いてなかったのか?あいつは今日見張り役だ。俺と左之と斎藤。今んとこ巡察がかぶってないこの三人で非番の間に見張るようにってな。土方さんから交代で見張りをやるようにって言い渡されてただろうが」
「あ、そっか」

今朝藤堂が貴舟の部屋を訪れる前に幹部達へ土方からそうお達しが出たのだ。
今のところ大人しくしているが、貴舟が逃げ出すとも限らない。しばらくは様子見ということで貴舟には部屋で大人しくしてもらって、部屋の前に交代で見張り役をつけるという話になったのだ。
今朝の事件のせいですっかり忘れていたけど、今日は左之さんの番だったらしい。

「巡察が終わったら左之への差し入れついでに様子見に行こうぜ。そん時に平助もまた謝ればいいんじゃねえか?」
「へへっ、そうだな!」

にっと笑う永倉に藤堂も笑い返し、「よーし!」と伸びをする。

「じゃ、今日もがんばっていきますか!!」
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