序 05



人手不足とともに、今土方を最も悩ませているのが人材についてのことだった。
過去のいざこざから、京での組の評判は最悪だ。おかげで募集をかけても入隊希望者などほとんどこなかった。
まれに希望者が来ても、そのほとんどが入隊試験になると落ちていく。
道場の中で戦うのと、実戦で戦うのとでは訳が違うからだ。
いくら道場での腕がよくても、いざとなったとき人が斬れなければ意味がない。新選組が今必要としているのは、丁寧な道場剣術ではなく実戦で即戦力となる殺人刀だった。
しかし、人を斬れば武士でも罰せられるこの御時世に人を斬ったことがある奴など稀だ。思うような人間が来ず土方はほとほと困っていた。


「腕がいいやつねぇ…」

土方の後ろで何気なく戸を閉めながら原田が呟く。
それにいきなり藤堂が「あ!」と声を上げた。

「なぁなぁ。二日前に市中を巡察しているときに聞いた話なんだけどよ。何でも島原にめちゃくちゃ腕の立つ用心棒がいるらしいぜ!」
「「「用心棒?」」」

嬉々としてしゃべる藤堂に、その場にいた全員の気が引かれる。

「ああ。商家で騒ぎがあってそこへ駆けつけたんだけど、俺が着くころには全員のされちゃってた後でさ。商家の手代さんに聞いたら、その用心棒が一人で片付けちゃったんだってよ。大男六人を相手取って大立ち回り!!俺も見たかったな〜」
「…それって本当?」

沖田が胡乱げな目つきで聞く。

「見てたって人にも聞いたから、本当だって!」
「ふーん」

それにむきになって藤堂は言い返すが、相変わらず沖田の反応は薄い。腕を組みあまり面白くなさそうな態度だ。だが、いきなりにやっと意地の悪い笑みを浮かべたかと思うとこんなことを言い出した。

「じゃあ、本当に強いのかどうか僕が試してあげるから、平助がその人をここへ引っ張ってきてよ」
「え!?俺!?」
「言いだしっぺは平助なんだし、当然でしょ?」
「でも、居場所知らねぇし」
「そんなの聞き込みすればいいじゃない。有名なんでしょ?その人」
「う…」

どんどん言葉を失っていく藤堂に、沖田はにやにやと笑う。まるで鼠をいたぶる猫のようだ。
まったく、相変わらずタチが悪い。
土方がひっそりと溜息をついていると、原田が藤堂に助け舟を出した。

「まぁまぁ。それが本当なら、入隊の誘いをかけたいぐらいだけどな。なぁ、土方さん」
「ん、ああ」

急に話を振られ、土方は思わず頷いてしまった。しかし頷いてしまってから、それも悪くないなと思った。
たった一人で六人を殺すことなくいなしたというのが本当なら、大した腕であることには間違いない。確かに、それほど強いのであれば喉から手が出るほど欲しい人材ではあった。

「…島原の用心棒か」

土方はぽつりと呟き、思案するように障子の向こう側――島原のある方角をじっと見た。
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