序 50


返してもらった刀を腰に差し、戻ってきた馴染みのある重さに貴舟はほっとする。
肩の重さが軽くなったようだった。そこでようやく、ここ数日間は自分が思っていたよりもずっと気を張っていたことを自覚した。
ようやく東の空が白み始めた時刻。
屯所の門前には、貴舟と藤堂、そして山南の3人の姿があった。

「……帰っちまうんだな」
「そういう約束ですからね」

寂しげにぽつりとこぼした藤堂に山南はそう返し、貴舟に向き合った。

「では、分かっていると思いますが、今回のことはくれぐれも他言無用でお願いしますね」

山南の念押しに、貴舟は首肯を返す。もとよりそのつもりだった。
2人に踵を返そうとしたところで。

「あ、あのさ」

藤堂に呼び止められた。
何事かと思って振り返れば、後ろ髪に手をやって、困ったような顔をしている。
声をかけたはいいものの、何を言えばよいのか分からない。そんな風情だった。
大方、別れの挨拶を言おうと思ったが、上手い言葉が見つからなかったのだろう。
それはそうだ。ひと悶着あって今まで身柄を拘束していた者に対して、「また会おう」とか「元気でな」などとは、ふさわしくはないだろう。
勢いはいい藤堂らしいが。
ふ、と口元に笑みを浮かべ、貴舟は口を開く。

「また、な」

同じ京の街にいるのだ。
またどこかで顔をあわせることもあるだろう。そういう気持ちを込めて言えば、藤堂は大きく頷いた。

「!おう!」

今度こそ貴舟は、2人に踵を返した。
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