鬼事 02




廊下のほうからすさまじい怒鳴り声とばたばたと走る音が聞こえてくる。
職員室の中までしっかり響いてくるその音にみんな一瞬驚いたものの、またかというような顔をして自分の仕事に戻っていく。
そんななか、俺と同僚の新八は顔を見合わせ、苦笑いした。

「あーあー。土方さんまたあの二人とやってんのか。総司と白川もこりねぇなあ」
「こりないっつーか、総司の場合もうあれが趣味なんだろ」

肩をすくめて呆れたように言えば、新八が相槌を打ってくる。

「まぁ、確かにな。近藤校長の剣道道場に通ってるときから師範の土方さんとは仲悪かったって話だし、こないだなんかまた土方さんの古典だけわざと悪い点数とったんだっけか?」
「ああ。ま、いつもの話だ。あ、新八。俺にもコーヒー淹れてくれ」
「はいよ」

ちょうどコーヒーを淹れに席を立った新八に、俺はマグを渡す。

「それにしたってよお」
「ん?」

コーヒーサーバーからコーヒーを淹れながら、新八がふってくる。

「総司は土方さんと仲が悪いから分かるんだが、あいつが土方さんを総司と一緒になってからかってるのが俺にはわからねぇんだ」
「白川か?」
「そう。普段あいつは人のことからかったりするやつじゃないだろ?」
「確かにな」

俺は頷き、普段の白川について思い出す。
軽く茶化すことはあっても確かに総司のように人をからかって面白がるタイプではない。

「だろ?だから土方さんだけああやってからかいにいってるのが何か引っかかってよ。さの、お前はなんか分かるか?」

淹れ立てのコーヒーを手渡しながらそう言う新八に、俺は内心溜息をついた。
こいつ本当に分かってないな。
コーヒーをすすりながら、こっそり言う。

「…土方さんだから、だろ」
「え?」
「いや、なんでもない。それよりお前、午後からのレースの中継聞くんじゃなかったのか?」
「げ!忘れてた!!」

慌てて自分のラジオを取りに行く新八の後ろ姿を見ながら、今度こそ俺は溜息をついて窓の外をみた。
向かいの校舎の廊下では、あいも変わらず鬼ごっこが繰り広げられている。
土方さんが大事にしている句集を片手に楽しそうに逃げ回る総司と白川に、生徒たちからつけられたあだ名どおり鬼の形相で二人を追い掛け回す土方さん。

「…あんたも早く気づいてやれよ」

それまできっと、この鬼ごっこは続く。
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