鬼事 04




「そういえばさ」

学校からの帰り道。
あたりが橙一色に染まる中、わたしの隣を歩いている総司が急にそう切り出した。声に顔を上げると、どこか企んだような顔がある。
あ、何か嫌な予感。
とっさにさっきまで口をつけていた紙パックのジュースから口を離して身構える。そしてその対応は正しかった。

「最近、僕と一君のどっちかが瑞希と付き合ってるんじゃないかって噂が立ってるみたいだよ」

にこにこ顔で総司がそう言った瞬間、わたしの反対側にいた一君が思いっきりむせた。吹くのは免れたけど、飲んでいたジュースが変な器官に入ってしまったらしい。大丈夫だろうか。わたしは一君の背中を撫でてあげる。
何度か苦しそうに咳をしたあと、やっと回復した一君は真っ赤な顔で総司に食って掛かった。

「な、な、何故そんな噂がたっているのだ!!?」
「さぁ?僕に聞かれてもね」

「まぁ、でも」なぜか総司の手がわたしの肩に回る。

「僕は本当にそれでもかまわないけど?」
「からかわないでよ、総司」

至近距離まで寄せられる顔にわたしはうっとうしそうな顔をしてよけ、肩に回された手を払った。いくら幼なじみとはいえ、許容できる範囲と許容できない範囲がある。それは彼氏の距離だ。総司でもこの距離は許せない。
迷惑そうな顔をするわたしに総司はさっきよりちょっと離れて、でも悪びれる様子もなく笑った。

「あはは。ごめんごめん。でもさ、これでちょっとはあの人も慌ててくれればいいのにね?」
「…だといいけど」

口からは希望の言葉が出たけど、心ではきっとそんなことはないんだろうなと思った。
先生の目に映るわたしは、いつだってただの生徒だ。自分の担当のクラス、2年B組の白川瑞希。それ以上でも、それ以下でもない。
でも、わたしはそれ以上の存在になりたかった。生徒の一人としてではなく、"白川瑞希"として見てほしかった。だからわたしは、総司と鬼ごっこを始めた。少しでも、先生の視線を独占していたかったし、気にかけてほしかったから。
"気づいて"。
あれは、わたしから先生へのサイン。まぁ、結局一人でやる勇気はなくて、総司に手伝ってもらっているのだけど。
…いつになったら終われるんだろう。最近は、ちょっと疲れてきてしまった。

「…直接伝えては駄目なのか?」

ふいに、それまで黙って聞いていた(ただ単にのどが痛かっただけかもしれないけど)一君が口を開いた。

「言わなければ、分からないこともあるだろう?」

単純明快。本当に一君らしい考えだと思う。ストレートで、いつだって正しい。
でも。

「…わたしもそうするべきだと思うけど…」

言えないんだ。
告白しようとしなかったわけじゃない。でも、どうしても言えなかった。
いざ口にしようと思うと、のどの奥に言葉ひっかかって言葉が出てこなかった。
拒絶されたらどうしよう。
言う前からその不安で頭がいっぱいになって、結局いつも別の言葉にすりかえてしまう。
そう。わたしはいつだって、

逃げている。
ALICE+