過去拍手【斎藤】



杯をかたむけると、中に何かがあった。
透明な水底に咲くのは、黄色が目に鮮やかな菊の花だ。

「菊酒か」
「ええ、今日は重陽の節句ですから」

なかなか粋なことをしてくれる。
奥から濡れ縁へ冷酒器を片手に出てきた細君を横目に、俺は杯を傾ける。
うまい。
目を細めて酒のうまさに浸っていると、隣に腰掛けた細君が話しかけてきた。

「ねぇ、一さん」
「なんだ?」
「なんで重陽の節句に菊酒を飲むと思います?」
「それは…邪気を払い、長命を願うためだろう?」
「はい、ですから」

細君は空になった杯に酒を注ぎながら言う。

「長生きしてくださいね、一さん」

これからもずっと一緒です。
ついっと細君が捧げ上げた杯に、俺も杯を上げる。

「ああ」


これからも、ずっと一緒だ。
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