過去拍手【黄瀬】


Q.11月11日は?

「…ポッキーの日?」
「そっス!!」

いきなり何を言い出すんだお前はと思いながら振り返ると、涼太は満面の笑みでもって頷き返した。
その手には、あのお馴染みの赤いパッケージがある。
その時点で次に彼が何を言い出すのか容易に想像できて、私は顔をしかめた。

「俺とポッキーゲームしよう!」

やっぱりそうきたか。
いささかげんなりしながら、私は彼に返す。

「イヤだ」
「えっ!!何でっスか!?」

私の即答に大仰に驚く彼に、私は無言で周りを指差した。
私の指を彼の視線がたどる。
休み時間の今、私たちの周りにはたくさんの同級生達が思い思いに散らばり、おしゃべりをしたりお菓子を食べたりしている。
涼太の言ったとおり、今日はポッキーの日だからと、机に出ているお菓子の大半はポッキーが占めていた。
しかし、ポッキーゲームなんてものをしているのは誰もいない。
そりゃそうだ。

「こんなみんなの前で、できるわけないでしょ?」

なにが恥かしくてそんなことをしなければいけないのか。
ぴしゃりと言うと、涼太は一瞬ひるんだように目を見開くと、「そっスか」と見るからかにしょげた。
まるで叱られた仔犬のようだ。うつむく頭に伏せられた犬耳が見えるようだった。身体はやたら大きいのに涼太の反応はいちいち犬っぽくてなぜか良心が痛む。
っていかんいかん!甘やかすとすぐにつけ上がるんだから。
なるべくそっちのほうを見ないようにしていると、上からぽつりと呟く声が降ってきた。

「ごめん」

目の端でちらりと横を見ると、涼太が私の席から離れるところだった。
とぼとぼと背中を丸めて歩く後ろ姿がなんともいえない哀愁を放っている。なんか…ものすごくむずむずする。
甘やかしたら駄目って分かってるんだけど、だけど…ああ、もう…!
そう葛藤しながら私の手は、いつの間にか涼太の服をつかんでいた。
驚いて振り返った彼のまん丸な目が私を見る。顔が熱い。
私はひそめた声で涼太に言った。

「ひとが見てないところなら…いいよ」

語尾はとても小さな声になったんだけど、涼太はしっかり聞き取っていたようだ。
その途端、さっきまでのしょげ返った様子はなかったかのように彼は顔を輝かせ私に抱きついてきた。

「大好きっス!!」
「って調子に乗るな!!」

うわっ、みんな見てる!
必死に涼太を引き剥がそうとするんだけど、なにせ体格が全然違うからまったくびくともしない。
それに、あんまりにも涼太が幸せそうな顔をするものだから、私はとうとうあきらめて涼太のしたいようにさせることにした。
抵抗がなくなったことをいいことに、涼太の抱きしめる力がよりいっそう強くなって肩口に顔をうずめられた。
そんな私たちの姿に教室内から口笛やら冷やかす声が上がる。
ああ、もうどうにでもなれ。
やけっぱちな気分になっていると、「ねぇ」と涼太に呼びかけられた。

「約束っスよ」

甘い声。
涼太の腕の中で私はひっそりと溜息をつく。
ああ、もう。だから甘やかしちゃいけないって分かってたのに。

「…分かってる」





Q.11月11日は?

A.チョコレート味のキスの日
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