過去拍手【原田】



「はい。これおとうさんね!」

帰って来て玄関に上がるなり、出迎えてくれた末の娘から白い何かを手渡された。
自分の片手にのっかるほどの大きさのソレは、雨の日に吊るす丸い頭をしたもの。

「おっ、てるてる坊主か」

よくできてんなー。おそらく娘が作ったであろうてるてる坊主の出来ばえを頭を撫でて褒める。
わしわしと頭を撫でてやると、はにかむような表情をして喜ぶわが子が愛しくてたまらない。これを見るだけで仕事の疲れも吹き飛ぶというものだ。
思わずぎゅっと抱きしめて頬ずりしていると奥のほうからぱたぱたと足音が近づいてきた。

「左之助さん、お帰りなさい。雨大丈夫でしたか?」

嫁さん登場である。
そしてその脇には長男の姿もあった。末の娘と同じく、手にはいくつかのてるてる坊主を持っている。
俺がある程度濡れて帰ってくることを予想していたのか、バスタオルを抱えてきた嫁からそれを受け取りながら、長男に話しかける。

「それ、お前も作ったのか」
「うん。母さん達と一緒に作ったんだ。今から外に吊るすところ」

そう言って自分が持っているてるてる坊主を見せてくれた。少しずつ大きさや描かれた顔の違うてるてる坊主を指しながら説明してくれる。

「こっちが俺のでこれが舞の。これが母さんので、父さんが持ってるのが父さんのなんだ」

それぞれに似せて、てるてる坊主を作ってくれたようだ。
最初に娘が渡してくれた一番でかいてるてる坊主をしげしげと眺めて見ると、なるほど確かに自分の顔に似ているような気がした。

「梅雨で仕方ないとはいえ、ここしばらく雨が続いていますからね。週末ピクニックに出かけるときにはちゃんと晴れますようにって、みんなで作ったんです」
「つくったのー」

「ねー」と顔を見合わせる母娘にほっこりしていると、長男にそでを引かれた。

「だから父さん、一緒に吊るそう?」

何かを期待するような目に、すぐに気が付いた。ああ、これは。

「おう。じゃ、肩車してやるよ」

長男の背丈では軒に届かない。肩車を所望されていると気づいてそう言えば、長男は目に見えて喜んだ。

「うんっ!!」
「気をつけてくださいね?」
「分かってるって」

その後長男と一緒に軒へそれぞれのてるてる坊主を吊るした。


(あしたてんきにしておくれ♪)
(舞、気が早いよ)
(あら。左之助さん、テレビ見て!)
("週末は晴れ"。こりゃ早くもてるてる坊主効果が出たかな?)
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