正直鱗滝は強かった。
本気で挑んだけれど負けてしまった。
これが命の取り合いだったら死んでいた。
負けた原因は分かっていた。
私は刀の扱いを全く理解していないのだ。
鱗滝は木刀で何個か技を出していた。
あれが強さの秘密なのか…?

「剣術以外は完璧だ。ただ剣術だけが鍛えられていないようだな」
「どうも真剣には向いてない、です」
「いや、筋は良い。ただ型がないから勝てない」
「型…さっき見た技みたいなやつか」
「そうだ。呼吸は出来ているから型を一つでも身に着ければ最終選別に行ってもいいだろう」
「じゃあ今日から私もここで鍛錬するってことでいい、ですか?」
「ああ。励めよ」

錆兎と義勇の元に向かうとすげー!と煽てられた。
そりゃだてに何年も殺し屋やってないからな…

錆兎と義勇は水の呼吸というのを会得していた。
呼吸には何種類かあるが、どの種類にも私の呼吸は当てはまらないから我流らしい。
つまり何も参考にならないということか。

それからは二人と鍛錬しながら自分の型を探した。
型というのはやはり難しい。
自由自在に臨機応変に殺してきた私にとって型を作るという概念が自分の中にはなかったのだ。
三人で寝る準備をしながら私は自分の呼吸について考えた。

「言うならば殺の呼吸となってしまうね」
「…ころしの呼吸?」
「殺し屋の呼吸とならば殺の呼吸しかないだろう」
「なあ、いい加減その殺し屋とか昔のこととか教えてくれよ」

特に言ってしまってもいいが、まあフィクションとして聞いてくれればいいか。

「…鮮明に前世の記憶が残ってる。前世は殺し屋として生き、依頼があれば誰であっても殺ってきた。殺しが当たり前で、息をするように人を殺していた。私の肉体にもその当時の軌跡が刻まれているんだよ」
「…そうだったのか…それは、辛かったな」

そう言った錆兎と心配そうな目で見てくる義勇に私は驚いた。
疎まれ、罵られるのが当然だと思っていたがこの二人は全く違う反応をしたのだ。
殺しが当たり前だった幼い私を憂い、こともあろうか心配したのだ。
こんな人間がいることに私は驚嘆した。

「…驚いた」
「…?」
「まあ兎に角私は大丈夫だ。今はそんな経験も糧になってるし」
「詩澄が大丈夫ならそれでいい」

それからすぐ布団に入り熟睡してしまった。
どこでもいつでもどんな状況でも眠れるのは私の特技の一つだ。


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