それからは両親と会うことはなくなり、山で過ごす時間が圧倒的に増えた。
家に帰る用事といえば洋服や靴を作るぐらいだった。
なにせ手足が長くてこの時代の服だと寸足らずになってしまうのだ。

山の中で人に出会ったのは齢が10を過ぎて数年経った頃だった。
山で毒草を喰らっている時に後ろから迫る気配を感じた。
少しの殺気を感じるあたり人間だろう。

「とっとと出て来な」

後ろからガサガサと音がして宍色の髪をした人間が出てきた。
年齢は私と同じぐらいだろうか。
ここら辺に人間が住んでるなんて知らなかったな。

「お前…何者だ?」
「私は匂宮詩澄。何か用?」
「…何をしていたんだ?」
「この草を食べてた」

手に握った毒草を見せるとそいつは焦ったような顔で私に近付き腕を掴んだ。

「これは毒草だ馬鹿!今すぐ手当てしてやる、来い!」

何か言う前にそいつは走り出した。
私は耐性があるから問題ないのだけれど…

そうして日が落ちるころ着いたのは山奥にある家だった。
家に入ると天狗のお面を被った人間と、宍色髪と同じ程の背丈の人間がいた。

「こいつ毒草食ってて!手当お願いします!」
「…君、体を見せてみろ」
「私は大丈夫。耐性があるから」
「その毒草は即効性のある毒がある草だが君に症状はないようだな…」

宍色髪ともう一人は化物でも見るかのような目で私を見た。
小さい時から口にしていたから耐性がついて当たり前なのだ。

「何だかわざわざすみません…私は帰ります」
「待て、日が落ちると鬼が出るから今日は泊っていくといい」

天狗人間は当たり前の様に鬼、と口にした。
つまり鬼がいるということが当たり前の世界なのか?

「鬼…本当にいるんですか」
「ああ、鬼は確かに存在する」
「鬼を殺す鬼殺隊とやらに入りたいんだけれど、如何せん両親に気味悪がられてしまって鬼殺隊の入り方が分かんなくて困ってる所でした」
「ああ、最終選別で生き残れば鬼殺隊には入れる」
「なるほど。じゃあ明日にでも受けに行ってきます」
「待て!明日になったら実力を見てやる」
「…いいね。楽しみです」

天狗人間は鱗滝、宍色髪は錆兎、もう一人は義勇ということを教えてもらった。
少し離れたところに住んでいるということ、父が鬼殺隊員であること、雷と毒には大体耐性があると自己紹介した。

「何で両親に気味悪がられているんだ?」
「毒草を食い続けたり雷に当たりに行き続けていたらそうなった。強さを求めるなら当たり前なのに何故なのか不思議だよ」
「…お前やっぱりおかしいわ」
「心外!」

義勇も錆兎も鬼に親類を殺されて孤児なのだという。
一般家庭にしては何とも可哀想な生い立ちだ。

「何で詩澄は鬼殺隊員になりたいんだ?」
「私は殺戮ぐらいしか能がないからね」
「随分自分を卑下するんだな」
「昔から殺しを生業にしてきたからそれ以外の生き方を知らない」
「…昔ってどういうことだ」
「おっと義勇、ここから先は企業秘密だ」
「教えろよ!」
「錆兎うっさい」

そうして騒いでいると鱗滝に早く寝ろと怒られた。
私の実力が明日分かるということだ。
鱗滝は鬼殺隊でもかなり上位の人間だったと教えてもらった。
その人間に通用すれば私の強さを評価できる。
隣で眠る二人の顔を見て、この二人がいつか幸せになれますようにとうっすら思った。


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