最終選別に行く前に少しだけ自宅に寄った。
鱗滝が両親に手紙を出してくれていたおかげか、今まで何をしていたのかなど問い詰められることはなかった。
これを持って行け、と父親が私に刀を渡した。
以前父親が使用していた日輪刀だという。
行って来る、と言うと死ぬなよと言ってくれた。

「ご両親に会えてよかったな」
「うん。あの時私だけ鱗滝から刀を借りれなくてどうしようかと焦った」
「あの時の詩澄の慌てようは面白かったな」
「うるさい忘れて」

藤襲山まではそこそこの距離があったから私達は色んな話をした。
鱗滝の飯はうまい、とか義勇はもっと喋れ、とか錆兎は私を馬鹿にするなとか。
最終選別は普通に人が死ぬと聞いた。
私達のうちだれかが死ぬかもしれない。
私がもし生き残ったとして二人の内どちらかが死んだ時、私は再び立ち上がることができるだろうか?
また廃人となって何もせずただ生きる屍になってしまうだろう。
その時叩き起こしてくれる弟はもういないというのに。





藤襲山につき、私達は取りあえず生き残ることになった。
初めて鬼に出会えることで私は高揚していた。
選別が始まると私は二人とは別行動をとった。
この体の奥底に潜む残虐性を見られたくないと初めて思ったからだ。

「死ぬなよ」
「当たり前だ。義勇も死ぬなよ」
「生きて帰れよ」
「錆兎もな。生きていてくれよ」

拳を突き出してみると二人も同じようにして拳を合わせた。

「また後で」






日が差しているうちに休息をとることにした。
昨日眠れるだけ寝たから日向ぼっこだけした。
夜になって毒草を食いながら散策していると鬼は襲ってきた。
初めて出会う鬼に体が高揚しているのがわかった。
日輪刀でしかこれを殺すことが出来ないのは分かっていたが、やはりその肉体をこの手で壊したいと思うのは性なのだろうか。
弟直伝の《一喰い》を喰らわせると鬼は粉々にちぎれた。
胴体の半分ぐらいは喰ったと思う。
《一喰い》は簡単に言えば力加減など出来ない超強烈な平手打ちだから人間であれば死んでいるだろう。
しかし、目の前の鬼は壊れたところからジワジワと体が再生していたのだ!

「おお…!本当に戻ってる!すご……!」
「なんだお前は…今すぐ食ってやる!」

他の奴の気配がしたので目の前の鬼を誰もいない所に誘い出すように私は走り出した。
当然のように追って来る鬼を見て自然と口角が上がる。

二人っきりになれたところで鬼の肩峰と鼠経に釘を撃ち込み岩に張り付けた。
太く長い釘を用意しておいてよかった。
鬼は暴れようとしていたが、手足が動きづらい場所に大きな釘が深く突き刺さっているので鬼のような顔を私に向けた。

「何のつもりだ!」
「拷問の類は得意じゃないけどやってみよう!」

日輪刀で手を切り落とすと鬼が悲鳴を上げた。
やはり再生するとはいえ痛覚はあるらしい。
再生速度はやはり内蔵より早い。
足も同様にしてみたが手より長い分再生には少し時間がかかった。

皮を剥いでみると手でしっかり抑えていないとすぐに戻ろうとする力が働いた。
眼を穿ると新しい目が生えた。
歯もやってみたかったが咬みちぎられそうだったからやめた。
頭を握りつぶしてみると再生までかなり時間がかかった。
やはり精密な部分だからだろうか。

そうしている内に鬼は声すら上げることなくただただされるがままになってしまった。
殺してくれと途中で言っていたが、私のすることに口出すなと言って頭を叩き割ると黙ってしまった。
そのうち朝日が昇って鬼は消滅してしまった。
釘だけが残ったのでそれを回収し、日の当たる場所に穴を掘って寝ることにした。

次の日も次の日も同じように同じようなことをして過ごした。
強い鬼程体の再生速度が速いことがわかった。
強い鬼は何やら変な術を使ってきた。
毒の唾を吐く奴がいたのだ。
これが血鬼術というものの一つなのだろう。

そして最終日、私は日が落ちる少し前に穴から這い出た。
毒草を食いながら、ふと二人はどうしているかなと考えた。
日も落ちてしばらくすると私を狙う視線を感じた。
強い鬼が私を食おうと狙っている。
その鬼の見た目は人間とあまり変わらなかった。

「うまそうな女だ」
「私はこんな貧相な女を美味そうとは思わないけど、やはり鬼っていうのはそこら辺のセンスもおかしくなってしまうのかしら」
「いや、お前は強い。その強さを俺が取り込んでやる」
「私はここで死ぬわけにゃいかないの。それにしてもおにーさんは結構な人数を食ってきたみたいだ」
「ここに来る前の人数は数えきれないがここで12は食ったな。そしてお前で記念すべき13人目だ!」
「おー!不吉で良い数字だ」

鬼は私に襲い掛かるが寸での所で避ける。
今日は悠長に解剖している余裕はなさそうだ。
日輪刀を抜いて鬼を切り裂こうとするが、それは出来なかった。
近くの木が私の腕に絡みついていた。

「なるほど…植物を操る血鬼術か」
「そうだ。ここにある全てが俺の有利に働くんだよ!」

足に絡みつこうとしていた蔦を斬る。
それからは防戦一方だ。
地面も木も全てが敵で休んでる暇もない。

「どうだ!そろそろ疲れてきただろう!」
「疲れちゃいないけどどうしようか考えてるから静かにしてくれるかな」
「大人しく俺に食われろ!」

まだ日は出ない。
もう数時間は逃げまどっている。
傷はないがこれじゃあ埒が明かない。
逃げていたって仕方ない。
夜が明けるまで時間がそんなにあるわけじゃない。
それまでにこの手で殺してやる。

体にブーストをかけて、私は鬼に向かって走り出した。
襲い掛かる植物など関係なく刀を振るった。
喰い散らかされたような跡だ。

「《暴飲暴食》!お前の全てを喰らってやる!」

鬼を守るようにする草も、私の頭を狙う木も全て喰らいつくす。
私の邪魔をする奴は全て喰らって私の糧にでもなりゃあいい。
周りがだんだんと何もなくなり視界に入る植物が全てなくなった。
そうして見えた鬼の首に私は日輪刀を振りかざした。

鬼の首はゴロリと転がり私を見た。

「どうだった、かな?私の《暴飲暴食》は」
「クソ…クソぉ!!」
「中々いいでしょう。なんせ弟の必殺技から名前をとっているのだからね」
「なんなんだお前は…一体…!」
「私は元殺し屋、匂宮詩澄だ。よぉく覚えて成仏してね」

鬼の体、頭が消えていく。
日光に当たると燃えるように消えたが、日輪刀だと静かに消えていくんだな。

この鬼の血鬼術は半径10mの植物を操るというものだった。
鬼が消えたあと計測した。
そうしているうちに夜が明けた。
スタート地点に戻りながら、帰ったら二人と何を食べようかしらと考えていた。


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