「俺は煉獄杏寿郎だ!よろしくな匂宮詩澄君!」
「はいよろしく頼む」

今回共に任務をこなすことになった隊員は赤と黄緑の瞳を細めて笑った。
落ち合ったのは日も暮れる頃であった。
子供を狙った人喰い鬼がいると噂のこの街で俺達は出会ったのだ。

「匂宮君は何の呼吸を使うんだ?」
「殺の呼吸。まあ我流だけど」
「殺の呼吸…物騒だな!」
「褒められると照れる」
「褒めてはないな!」

街で聞き込みを行ってみると、皆山でいなくなっていることが分かった。
散策や山菜取りなど山に入った理由は様々であったがほんの少し目を離したすきにいなくなるという。
早速二人で山を目指した。
山の中腹まで来たが鬼には未だ遭遇していない。

「すっかり日も暮れてしまったな!」
「鬼が出そうな夜だ。私達以外の気配を探すから少し静かにしていてくれよ」
「わかった!」

匂宮君は地面に手をつき、目を瞑った。
かなり集中しているようだ。
それから数分経って、匂宮君は立ち上がった。

「よし分かった。着いてきて」
「凄いな君は!何をしたんだ!」
「すっっごい集中して、全身の感覚の感度を上げた。ただこれをやると体ががら空きだから誰かが居ないと出来ないって訳」

匂宮君は目的に向かって一直線に走りだした。
暫く走ると俺が鬼の気配を感じることが出来る程鬼が近くにいる所まで来た。
そして匂宮君が一歩を踏み出した時、地面から木が生えて匂宮君を高く縛り上げた。

「やべぇ!」
「匂宮君!」

日輪刀で植物を切り裂くと匂宮君は地面に落ちてきた。
植物を操る血鬼術か。

「植物遣いなら一度殺したことがある」
「なら安心だな!」
「しかし範囲が広い…本体が見えないのを考えると前の奴よりも広い範囲の植物を操れるみたいだ」

襲い掛かる植物を切り裂きながら前に前に進む。
確かに操られている植物の範囲が広い。
匂宮君は何故か斜めに走りだした。

「何をしている匂宮君!」
「有効範囲が縦に広いだけなのかもしれないからね、横にも走ってみる!」
「ああ!頼む!」

しかし匂宮君がいくら横に横に走ったところで攻撃の手は迫って来た。
鬼の血鬼術の範囲が鬼を中心に円状に広がっているとしたらもう匂宮君には攻撃の手が及ばないはずだ。
だがもし、植物が襲ってくるのは鬼の見えている範囲の物全てだとしたら納得もいく。

「匂宮君!鬼の視界にある全てが血鬼術の有効範囲かもしれない!」
「厄介だ!まあ兎に角そいつを殺しちまえばいい」

進めば進むほど植物の強度は強く、襲い掛かってくる速度も速くなってくる。
小さな小屋が見えて、その前に鬼がいるのを視界に捉えた。

「邪魔するな!」
「子供たちを返してもらおう!」
「お前等になどやるものか!」

匂宮君は伸びてくる草木を足掛かりに一気に鬼に襲い掛かった。
強烈な一振りを鬼が辛うじて避ける。
匂宮君は手足が長いから攻撃も当たりやすくなるのだ。

「惜しかった」
「俺が引き受けよう!」
「いや煉獄は中の子供を頼む!キッズ共は私を見たら泣く!」
「き…?分かった!ともかくそれまで頼む!」

匂宮君が鬼を小屋から話した瞬間に小屋に侵入するといくつかの棺があった。
蓋を開けると中から数名の子供が出てきた。
死んではいないが仮死状態だ。
棺から子供を出すと子供たちは目を覚まし、棺は枯れたように萎れてしまった。
子供たちを落ち着かせ、泣きだす子の涙を拭った。

「!私の大切な子供たちを勝手に…!許さない!」

鬼の狂ったような叫びが聞こえて、俺は思わず子供たちの耳を塞いで抱きしめた。
子供たちは恐怖に震え、怯えていた。
絶対に小屋の外に出ないように声を掛け、俺は急いで子供たちに背を向ける。

「うお…やべえ」

俺が小屋を出た時、匂宮君の周りを取り囲む鋭く太い草木達が高い所から匂宮君を今にも襲い掛かろうとしていた。
俺は瞬時に鬼に斬りかかるが、匂宮君に襲い掛かる草木の勢いは止まらない。
眼だ、どんなに傷を負わせようと眼をやらなければ終わらない。

「《暴飲暴食》!!全てを喰い尽くす!」

匂宮君はそう言って今までよりも凄い勢いで刃を振りかざした。
斬りつけられた植物は何かに喰われたような跡がつき、再生までに時間を要していた。
攻撃を受けているのにもかかわらず、匂宮君は鬼の方に一歩ずつ向かって来る。
鬼を絶対に討伐してやるという意思に俺の闘志も燃え上がる。

「あぁああっ!」
「匂宮君!今だ!」
「任せろ!」

俺の刃が鬼の両目を切り裂いた一瞬、匂宮君の周りの植物が崩れる。
その一瞬のうちに匂宮君の日輪刀が鬼の頸を刎ねた。


一人で子供たちを親御さんの元に送ってから、俺は再び匂宮君と落ち合った。

「キッズのことを任せてすみません」
「きっず、とは子供たちのことか?」
「…あ、それであってる」
「気にすることではない!匂宮君が攻撃の大半を引き受けてくれたから思っていたよりも簡単に討伐できた!」
「褒められると照れる」
「ははは!」

それから藤の家で体を休めた。
さつま芋ご飯をいただいたので活力が湧いた。
匂宮君は甘いものが好きらしい。
家主にいただいたキャラメルという西洋の菓子を見て涎を垂らしていた。
餌を目の前にした野生動物の様だ。

「匂宮君、風呂にでも行こうではないか!」
「まあいいけど私の性別は一応女だよ…私はいいけど杏寿郎の輝かしい経歴に傷が付いたら大変だ」
「……よもや…」

すらりとした細身で洋袴を着用して学帽を被っていたからてっきり男性だと思っていた。
俺としたことが…
女性になんて失礼なことをしてしまったんだ…

「すまない匂宮君。この詫びはどう償えばいいだろうか…!」
「え、よく間違えられるし性別とかどうでもいいし私は気にしてないから」
「しかし…このままでは俺の気が済まない!」
「…んー、じゃあ今度パフェ作ってよ。アイスと生クリームがたーっぷりかかった滅茶苦茶美味いやつ!一緒に作って一緒に食べるってのはどうだろう」
「うむ、そうしよう!調べておこう!」

匂宮君は着替えを持って風呂を浴びに行った。
匂宮君には悪い事をしてしまった。
しかし彼…いや彼女のあの型は不思議な型だった。
様々な呼吸の遣い手を見てきたが、あのような面白い型を使う隊士は初めて見た。
今度手合わせを願えないだろうか…

「遅くなった」

そうこう考えているうちに匂宮君が浴衣に着替えて部屋に戻って来た。
線の細さ、浴衣から覗く体は確かに女性であった。
俺も風呂をいただき、部屋に戻ると匂宮君はすでに寝ていた。



昇る朝日で目を覚まし、朝食を食べた後俺は匂宮君とは別の任務につくことになった。

「パフェ、約束だからね」
「勿論だ!必ず約束は守る!」
「頼んだ!」
「ああ、近いうちに手合わせを頼む」
「楽しみにしてる」
「じゃあ、また近いうちに会おう」
「またね。バイバーイ!」

ばい…?
匂宮君は大きく手を振って俺に背を向けた。
次の任務が終わったら文を送ろう。
手合わせをしよう、そして西洋の菓子を食べよう。
そう記せば彼女は喜ぶだろうか。


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