夢を見る。
出夢と理澄と、それから私が一緒に生活していたころの情景だ。
殺戮以外は案外普通の生活をしていたと思う。
知っている人も、信頼できる人も、互いに二人だけで。
俗世間からは離れたような生活だったけれど私達は確かに幸せだった。
それからしばらくして私に依頼が増えて、二人と過ごすことは出来なくなってしまったけれど。

この世界はもしかしたらパラレルワールドなんじゃないかと思うこともある。
鬼がいたなんて話は聞いたことがない。
鬼なんてものがいたのなら、私達が知らないはずがない。
というかあの世界で鬼といえば殺人鬼を一番に連想するのが通常だ。

それでももしこの世界が私達が生きていた未来に繋がっているのだとしたら。
いつかあの二人が生きる時代になって、鬼なんてものが居たら可哀想じゃないか。
この世界に未練などない。
いつ死んだって構わないと心から思う。
ただ死ぬ時には目の前の鬼ぐらいはついでに殺しておこうと思うのだ。

姉貴、と呼ぶ声が聞こえて目を開けた。
天井は白くて、病院のようなところだった。
私は仰向けに寝かされていて、体中包帯で巻かれて点滴が何本も釣り下がっていた。
そういえば血を流しすぎた気がする。
私が直接鬼に手を掛けることができる場面ではなかったが、もう一人の派手筋肉君が殺すだろうと踏んでの特攻だった。
何と、生き残ってしまったか。

ふと視線を下ろすと誰かが私の手を握ったまま寝ているのに気付く。
もしかして私が起きるまでずっとこうやって私が目覚めるのを待っていたのだろうか。
自分の命をどうとも思っていない私を待つ人間のいじらしさったらない。
どうしようもない、馬鹿な人だ。

「おはよう」

声を掛けるとそいつはゆっくりと頭を上げて小さく笑った。

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