「は?お前ェ家ないのかよ」
「両親に気味悪がられて帰りづらくて…宿を転々としてる」
「借家とかあんだろォが」
「…あー」

アパートでも借りようと思った時期もあったけれど、職業に何書けばいいんだと思ってやめてしまったのだ。
昔ならネットでいくらでも捏造して情報操作できたものだが、ネット自体が普及していないからどうしようもない。
こんなところで不便を感じるとは思ってもいなかった。
最近増えてきた私物は蝶屋敷の倉庫に置かせて貰っている。
カナエさんすみません、という感じだ。

何度目かの一緒の任務後に身の上話に花を咲かせる。
実弥は私の住居事情を聞いて有り得ないという顔をした。
文句も言わずに一緒に甘味処に着いて来てくれるようになってきたあたりそこそこいい関係だと思うのだけれど。

「じゃあ実弥の部屋貸してよ。家にいる時は家事もするし、私は服も作れる!」
「はァ?俺がお前に協力してやる義理はねェ」
「私はおはぎだって作るの上手なのに?!」
「俺のことをおはぎで釣ろうとするなよ」

実弥は私の頭を軽くはたくと少し笑った。
珍しいものを見た。

「…私は実弥を笑顔にすることだって出来る」
「……うるせェよ、馬鹿」

実弥はそのままそっぽを向いて何処かに消えてしまったので、一人で藤の家に行って体を休めた。
一人の任務の時は最近傷を負うことが増えてきた。
今までは何とか私の身体能力で負傷せずに済んできたが、今はそうもいかない。
何せ相手は異能の鬼なのだ。
殺し名、呪い名の連中も化物ばかりだったが、こっちは正真正銘の化物なのだ。
リーチとか、関節の微妙な動きだとか関係なく鬼は私達を殺そうとしてくる。

私は多分鬼舞辻無惨を殺す前に死ぬだろう。
他の隊員に比べて圧倒的に覚悟がないのだ。
実弥は母親を鬼にされて、それを殺したという。
私は多分出夢や理澄が鬼にされた時、私は殺せないだろうなと思った。
彼等は信じられないくらい覚悟を決めていて、私にはそれが想像つかない。

錆兎は死んだ。
義勇に話し掛けるのが怖くてもう何年か過ぎた。
大切なものが出来ることが、私はこの上なく怖いのだ。

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