10

「はぁ……はぁ……つよ……」

目の前で匂宮詩澄がうつ伏せになって倒れていた。
こいつから鍛錬して欲しいと連絡があったのはついこの間のことだ。
煉獄から聞いた話だと冨岡と蝶屋敷で喧嘩をしてから手当り次第鍛錬の申し出をしているらしい。
煉獄もそのうちの一人だったとか。

「てめェはバカすぎる。肉を切って骨を断つのもいいが、てめェのはやり過ぎだ。そのうち骨までもってかれるぞ」
「………」
「…おい返事ぐらい…って寝てやがる……」

そういば1週間ほど寝てないと言っていた気もする。
任務と鍛錬とで相当疲れているらしい。
放っておけばそのうち目覚めるだろう。

仮眠をとって、任務に備えた。
奴はまだ寝てやがる。
そもそも冨岡と喧嘩っていうのがわからない。
こいつは何を言われてもへらへら笑ってるような奴だと思っていたが。




思ったよりも簡単な任務だった。
鬼も弱いし秒殺だった。
屋敷に帰るとまだ奴は寝てやがった。
あまりにも微動だにしないので死んだかと思ったが、寝息が聞こえるので生きているらしい。
体を揺さぶってやると眉間にシワが寄った。

「おい、いい加減起きろ」
「うー……」
「人の家で爆睡すんな」
「…、実弥」

まだ寝ぼけてやがるのか?
風呂に入れと言うと頷いた。

「私って弱い?」
「そこそこだろ」
「なるほど」
「……何か言われたのか」
「…お前は弱いから鬼殺隊辞めてガキでも作って隠居しろって言われた」
「…………」

これは多分、冨岡に言われたんだろう。
正直冨岡の気持ちは痛い程分かる。
同門の大切な女が鬼殺隊で何度も重症になっていたらそう思ってしまうのも頷ける。
弟が同じような道を進んでいたら俺も冨岡と同じことを言うだろう。

「まあそう思われてしまう程私が弱いのが悪いんだけどさ」
「…強くなりゃいいだろ」
「そうだね」

詩澄は起き上がって、そのまま風呂に向かった。
大切な人間に生きていてほしいと思うのは当たり前だ。
ただでさえいつ死ぬかわからない鬼殺隊に入って、こんな無茶な戦いをしている。
そりゃあ冨岡も黙っていられないだろう。

飯を食べていると詩澄が居間まで入ってきた。
髪が濡れたまま結ばれている。

「じゃあまた」
「…おう」
「ばいばーい」

髪からポタポタと水が滴り落ちて道を作っていた。
奴は何で鬼殺隊に入ったんだろう。
俺や他の隊員のように鬼に強い恨みを持っている様子でもない。
何故そこまで鬼殺隊にしがみつくのか……
まあ俺には関係のないことだが。



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