鏡を初めて見た時に私は驚愕した。
右目は赤、左目は黄緑に染まっていた。
その目に死んだ妹弟を見た。
ここに来て初めて泣いたのはその時だった。

父親は『きさつたい』とやらにいるらしい。
『きさつ』とはなんだと思っていたが、どうやら鬼を殺すことなのだと判明した。
父親は帰るたびに鬼殺の話をしていた。
私も将来鬼殺隊に入ることになるんだなとぼんやり思った。

それならば早めに訓練をしなくては。
電気椅子や拷問などの訓練は一通り終わっているがこの体がその訓練の成果を残しているかどうかはわからない。
多分この父親は私を鍛えるだろう。
しかし肉親が行う訓練で私は満足できるだろうか…


人より早めに立ち上がり、人より早めに喋り始めた私は今が大正時代なのだと知った。
何年前だよ…困っちゃったな。
その頃から父親による鍛錬が始まった。
まずは基礎体力からつけることになったが、思ったよりもこの体は前世の記憶を受け継いでいるらしい。
体力や身のこなし、体躯のせいで完璧にとはいかないが体が動きを覚えているのを感じて正直興奮した。
よっしゃ!と私は一人部屋で叫び踊った。



数年かけて思い描く動きをやっと体が体現出来始めた。
体術はもういいだろうと思い電撃への耐性をためすべく嵐の夜には雷に当たりに行った。
時折気絶してボロボロになって帰り母親に怒られた。
何度も怒られ嵐の夜には外出禁止となったが、監視の目を掻い潜って何度も雷に当たった。
服がボロボロになってしまうからすぐにバレるが、何度も繰り返すうちに母親も諦めたようだ。
死なずに帰ってこいとしか言わなくなった。

それからは毒の耐性をつけるべく山に潜った。
毒だと思われる草や花を手あたり次第かき集めた。
少しずつ毒を摂取し、体調を見ながら量を増やしていった。
その頃には気持ち悪いと母親から距離を置かれる様になった。
何かと戦うモノとして強さを求めるのは当然だと思うのだけれども…

しかし肉弾戦を好む私にとって剣術だけがネックだった。
肉体を破壊する時の瞬間こそが至高だというのに刀で斬るだけというのはあまりにもあっさりすぎると思ったのだ。
不満げな顔をする私に父は言う。
「鬼は頸を切らねば死なない」
何と体は再生するらしいのだ。
面白い生き物がこの世にはいるもんだ。
刀の捌きは問題なかったが、刀を使って何かを殺すということ自体が未経験で早く鬼を殺したいと願った。
それよりも早く鬼に出会いその生態をこの目で見たい。
そう言ってしまいそうになるが父親も母親もきっと蔑むような眼で見てくるので黙っておいた。

それから何やら特別な呼吸を会得しなくてはいけないことになった。
父親の説明を聞く限り、体にブーストをかけるようなことだと理解した。
ブーストを掛けることなど造作ないが、そうしてしまうと木刀であっても造作なく父親を殺してしまう。

息を大きく吸って体の血の巡りを早くすると頭のてっぺんから足の先まで燃えるように熱くなる。
口角が上がり今すぐにでも何か、誰かと戦いたいと体がうずく。
待て待て、このままではまずいと思いブーストを解除する。
父親が驚愕と感嘆、それから恐怖を滲ませた眼で私を見た。
「…もう教えることはない」
そう父親は言って以降私と口をきくことはなくなった。




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