弟弟子に頼み込まれて、私は後輩育成をすることになった。
とにかく組手をするだけなのだが⋯⋯
私は家がないので蝶屋敷の場を借りて炭治郎と手を合わせていた。
炭治郎は確かに根性もあるし、何度でも挑んでくるので私の回復にも役立っていた。
炭治郎は暇があれえば文を送ってきて、私に挑んでくる。
なんと向上心ある若者なんだろうか⋯⋯

体はまだ全盛期には戻っていないが、最低限の動きはできるようになってきていた。
蝶屋敷で炭治郎は友人も誘っていたが、その友人は怯えきった顔をして逃げていった。

私は縁側に寝そべってお煎餅を食べながらアオイちゃんがシーツを干しているのを見ていた。
お煎餅はなほちゃんたちがくれた。
ここ一年で回復力がかなり落ちている。
ただの手合わせなんてアップにもならなかったはずなのだが、今じゃあ少し休憩が欲しい程だ。
情けないが仕方がないことだ。
温かい日差しと疲労感でうつらうつらとしていた。

「お前!!匂宮じゃねえか!」

静寂を破ったのは大きな声だった。
そこには宇髄天元がいた。
一瞬で距離を詰められたが腕を掴まれるのは何とか避けた。

「鈍ってんじゃねえのか?前のお前なら今の間に部屋から出てってたぜ」
「あーもう⋯⋯」

柱とはなるべく顔を合わさないように過ごしていたが、蝶屋敷にいるとなればそうもいかない。
とにかくともかくきまずいのだ。
説明責任から逃げているので仕方ないのだが⋯⋯
蝶屋敷の庭を逃げ回りながら後悔していた。

「お前のことずっと富岡も探してたんだぜ!」
「だろうね!」
「あとお前不死川となんかあったんだろ!あいつブチギレてたぞ!」

そう、そうなのだ。
そうなのである。
私は不死川から逃げているのである。

私の事情で不死川に迷惑をかけたくない。
不死川は関係なく生きてもらっていいので、諸々を説明するのが嫌だったのだ。
それに誰かを家族に入れてやってもいいと思ったのは初めてだったので、これをどう上手く説明したら納得してくれるのかわからなかった。
これが恋愛感情と呼ぶべきものなのかもわからない。
私にとっては知らない感情だったのだ。

「あいつ任務被った奴全員にお前の居場所わかったら教えるよう脅してんだぞ!!」

時間の問題じゃん⋯⋯
むしろここまで逃げきれたのが奇跡みたいなもんだ。
やばいなと思ったときには腕を掴まれていた。

「やっぱりだいぶ体力落ちてるだろ。前の匂宮なら俺が疲れるまで逃げ切れてるぜ」
「⋯⋯そんなの自分が一番わかってるし」
「まあ俺は深く聞かないけどよ、不死川とか富岡に会った時の言い訳ぐらい考えておけよ」
「⋯⋯」

そんなの⋯⋯本当のことを言うしかないでしょ。
そうじゃないとあいつら引き下がんないよ。

「なあ、お前俺の任務ついてこいよ」
「どこ行くの」
「遊郭。多分上弦がいるぜ」
「⋯⋯私よりも炭治郎を連れて行くといい。あいつ根性あるよ」
「お前後輩育ててんのか?!」
「あいつ何回も手合わせしろってしつこいんだよ。仕方ないからやってるだけ」

宇髄は高笑いすると私の腕を離した。
私が後輩育成のマネごとをしているのがそんなに面白かったのだろうか。
そういえば昔、杏寿郎に言われたような気がする。
でもまさか、こんな形で叶うことになるなんて。

宇髄はそのまま高笑いしながら去っていった。
何だったんだ⋯⋯

私は着替えて街に出た。
気配を消して街を歩く。
街では鬼を知らなさそうな人間たちが平和を享受していた。
この当たり前の風景に有難さすら感じる。

若い母親に抱きかかえられた赤ん坊と目が合った。
笑いかけられた気がした。

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