姉弟子は鬼殺隊の中でも有名な人だった。
猪之助も時間があれば稽古を付けて貰っているようだ。
この前は俺と猪之助の2人がかりで手合わせしてもらったが、ひと掠りもしなかった。
「あいつやべえよ!俺が殺気を察知するって分かったら殺気が出ないように調整しやがった!」
猪之助も俺と同じことを考えていたようだ。
俺が匂いで攻撃を避けていることが分かると、匂宮さんは全てを無にして攻撃してきた。
そこにいるのにそこにいない様な。
見えていなければ存在が感知できない程に無、であった。
その領域に至るまで、どれほどの鍛錬と場数を踏んできたのだろうか。
考えただけで気が遠くなる。
しかもそれを自在に調整できるなんて、正直人間技じゃない。
鬼との闘いでも出来ているんだろうか。
同じ任務の時には俺に鬼の頸を切らせてくれたからそこまで分からなかった。
でもきっと匂宮さんなら出来るのだろう。
「そういえば私、結婚したから」
「おめでとうございます!お相手って聞いてもいいですか?」
「実弥だよ、不死川実弥。じゃ私もう帰るわ。バイバーイ」
それを聞いて、俺と猪之助はしばらくその場から動けなかった。
この世にそんな衝撃的なことがあっていいのだろうか。
衝撃が強すぎて声すら出なかった。
この世の仕組みとは何か、この世はどうなっていくのかなど、俺は考えていた。
「本当にあの人って……本当にバカですよね」
蝶屋敷でしのぶさんに匂宮さんの話をした時、しのぶさんの匂いが変わった。
怒りの中に少し嬉しいような、少し楽しいような、そんな匂いがした。
「あの人は昔からそうなんですよ。どうしようもなくバカで、どうしようもなく唐突で、いつも肝心なことは教えてくれないんですよ」
「しのぶさん……」
「どうせ冨岡さんにも何も言ってないですよ。冨岡さんがどんな反応をするのか楽しみですね」
同門なのに言ってないのか?
いや、あの人なら有り得るかな……
「炭治郎くん、匂宮さんとの手合わせは楽しいですか?」
「はい!色々学ばせてもらっています。体の使い方が全く違くて、何とか追いつきたいのですが今はまだ全然ダメで……」
「匂宮さんは言葉足らずなので大変だと思いますが、頑張ってくださいね」
「はい!」
匂宮さんの身体の使い方は他の人と全然違う。
多分刀を握ることを前提とした体の動かし方ではない。
刀がないことで本領発揮するような、そんな動きなのだ。
なぜそのようになったかは分からないが、何となくそう思う。
以前戦闘中に何を考えているのか聞いてみると、何も考えていないと言われてしまった。
体が勝手に反応するようにしている、と言っていたが俺はまだその領域に到達していないように思える。
それにしても……
「結婚か……」
いつ誰が死ぬか分からないこの鬼殺隊で、結婚しようと思えることは素晴らしいことだ。
ずっと一緒に暮らして幸せになってほしいと、思う。
そのためにも俺は鬼を倒さなければいけない。