転がった缶コーヒーが自分の靴の爪先に当たって止まった。
俺はそれを拾い上げて正面を見た。

「ナギさん…」

捜査協力の依頼が来て、警察庁に登庁したのはさっきのこと。
そしてカフェの似合う彼女の姿を見つけたのは今のこと。
降谷さんに部屋に連れられる途中、缶コーヒーを手から滑り落とした彼女がそこにはいた。

「新一…どうしてここに」
「はは…ご依頼がありまして」
「…零、聞いていないぞ」
「言ってないからな」

はあ…と彼女はため息をついた。

「では改めて…八月朔日ナギだ。よろしく新一」
「こちらこそよろしくお願いします。あなたも公安だったとは驚きました」
「敬語はやめてくれ」
「じゃあ遠慮なく…」

彼女の素はこれだったのか。
人の好い笑顔はなくて、でも不思議と無表情が似合っていた。

彼等から捜査の資料を受け取る。
加害者も一筋縄ではいかないようだが、被害者も一癖あるようだ。

「被害者の戸籍が全て偽物であることが分かった」
「そんなことあるんですか…きな臭いですね」

被害者全員の戸籍が偽物なんて事件は初めてかもしれない。
あまりにもおかしい。
被害者達に何かつながりがあるとみて間違いないだろう。
加害者の男の身元は中華系アメリカ人。
数十年前は中国に住んでいたようだ。

「中国で被害者と加害者の間で何かあったと…」
「ああ。だが詳しいことはまだ協力を要請している所だ」
「そうですか…」
「新一君はどう考えている?」
「彼等の間に因縁があって、何かもう一枚咬んでいるような気がしてなりません」

日本に来たのもそれが理由だろう。
加害者が以前中国に住んでいた時に何かしらが起きた。
そしてその因縁を何かのきっかけで果たすことになった…

「加害者のプロフィールはこれで間違いないんですね?」
「ああ。中国在住時代の詳細は明らかではないが女性と住んでいた様だ」
「恋人か家族か…」

この女性がキーになってくるだろう。
彼女が生きていれば事件は大きく動きそうだが、その可能性は低いような気がした。


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