予想通り、そして予定通り奴等はこの日本に辿り着いた。
港で奴らを出迎えた後、僕たちは公安の所有する場所で検問を行うことになった。
奴は驚きも狼狽えもせずあっさり大人しく着いてきた。
部下も同席を望んだが断らせてもらう。
張維新も付き添いは要らないと部下を諫めた。
席に着いてからも張維新は特段変わらない空気を纏っていた。

「俺たちはここで何かしようって訳じゃない」
「ならばあなたが日本に来た目的をお教え願いたい」
「…日本の優秀な国家権力ならばそんなことはもう手の内だと思っていたが」
「我々を高く評価して頂いて幸いだ」

飄々と質問を躱しながらもこちらの真意を読み取ろうとしてくる。
流石一流の悪党、といったところだろうか。

「今回は入国許可を考えてもいい」
「好待遇に感謝するぜ」
「勘違いしているところ悪いが、僕はまだ許可できるとは言っていない」
「日本政府は何が望みだ。もしくは君の望み、かな」

サングラスの奥の瞳に貫かれる。
有無を言わせない、嘘などすぐに見破られると咄嗟に悟った。

「八月朔日」

そう声をかけると扉の奥からナギが現れ、僕の隣に腰掛ける。
張はそちらを一瞥し、再び僕の目を見つめた。
ナギから受け取った写真を張の前に出す。

「この男に見覚えはないか」
「いいや、ないな」
「そうだろうと思っていた」

この写真はただのかませだ。
張が反応しないのも想定内だ。
その後何枚か写真を見せる。
その中に今回の被害者を紛れ込ませた。

「長いことやってもらって悪いが、君たちの期待していることはお答えできないな」
「…今まで見せた人間の中にあなたの元職場仲間だった奴がいると聞きましてね」
「…そうか、覚えていなくてすまないな」

張からは何の動揺も感じ取れない。
これが本物のマフィアなのか。
その恐ろしさ、肝の座り方を肌で感じる。

「私から個人的な話をしても?」
「ああ、構わない」

急にナギが話し始めた。
待て、シュミレーションにはなかったぞ。
変なことを口走るな。
ロアナプラにいたようだし、こういった交渉がど素人とは思ってはいないが。

「久し振りに会った友人と食事にでも行きたいんだがどうだ、張の旦那。明日は暇か?」
「…ッハハハ!やっぱりお前変わってねえなぁ、ナギ」

張が笑い、張り詰めていた空気が変わった。
しかしこいつは、何てことを言いやがる。

「久し振りに会ったんだしメシぐらい行くのは普通のことだろうが、何笑ってやがる」
「あぁそうだな、明日予定が済んだら連絡を寄越すよ」
「分かった」
「お前が日本に首輪を繋がれてる理由も聞かねぇとな」
「…、わかったよ」

何だ?
この2人相当親しい仲だ。
張との関係性を明かさなかったのは賢いが、上司の俺には一言あってもいいだろ。

「そろそろお暇してもいいか?俺も暇じゃないんでね」
「…お時間頂き感謝する。良い旅を」

最後は笑顔で彼等を見送った。
時間はまだある。
奴等を手放しにすることはしないが、本格的に彼等を詰めるのはナギの収穫を待ってからでもいいだろう。

「…ナギ、この後時間、あるよな」
「…たっぷりと」
「手を洗いに行く時間ぐらいは待ってやっても良いぞ」
「じゃあ遠慮なく」

ナギがそのまま黙って本部に帰ったことを、その時の俺は知る由もない。

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