テロリストが潜入したとの連絡を受けたのは一週間前のこと。
そしてそのテロリストに突入したいと連絡をしたのは一時間前のこと。
潜伏先が住宅地ということもあり、突入する人数を絞る必要があった。
そんな時上から一人で十分だと指示を受けた。
そいつにはすでに連絡済みであり、じきにテロリストは全滅するだろうとのことだ。
僕はその後テロリストのアジトに残る情報を集めろという指令。
数年前から妙な噂があった。
僕達ゼロすらも知らないゼロの一員がいる。
それはただの実働部員。
危ない仕事や海外マフィアと直接やりあう案件はそいつが処理していて俺達に回る仕事が減っているらしい。
確かに言われてみれば外での仕事が減った気がするが、正確なデータがあるわけでもない。
下らないただの噂でしかなかったが、こうして現場検証に僕が駆り出されるのは初めてだった。
そして今、テロリストの潜伏先だった場所に僕はいた。
中からは物音一つしない。
そして漂う生臭い匂い。
息を潜めて突入するもそこにはただ死体があるだけだった。
鉄の匂いがぶわっと広がる。
10数体の死体が血を撒き散らして散在していた。
頭を撃たれた者、心臓を撃たれた者、首を撃たれた者。
惨状というにはあまりにも悲惨だった。
作業を開始して、ようやく時が動き始めた。
臓物だらけの部屋で、僕だけが確かに生者だった。
部署に帰ってからも皆が静かに作業した。
国の敵とはいえ死体は死体だ。
人には変わりない。
異様な空気の中テロリスト達の情報を解析した。
死体を見すぎたのか作業が長引きすぎたのか精神的に疲れてしまった。
何となく夜の空気を吸いたくなって庁舎を出た。
ふと気が付くとあの店の前まで勝手に足が動いていた。
店のガラス越しにナギさんと目が合った。
どうやら店じまいの作業中だったらしい。
彼女は驚いた様に大きく目を開けて、それから入口に走って来た。
「…安室さん!お疲れ様だ」
「ああ。締め作業中に悪いね」
「お気になさらず!さ、入って!」
「いいよ、もう営業は終わってるんだろう?」
「ふっふっふ…今日は私がラストだから今は私が店長!だから閉店時間も私が決めるのです!」
「ははっ、それじゃあ店長さんのお言葉に甘えようかな」
「はい!ご来店ありがとうございます」
ふわっとナギさんは笑って扉を開けて俺を迎えた。
カウンターの隅、いつもの席に座ってただ外を見た。
コポコポとお湯の湧く音が聞こえる。
それからコーヒーのいい匂いが鼻を擽った。
空はすでに黒く沈んでいる。
小さい宝石みたいな星が浮かんでいた。
今日見た死体達はどんな風に死んでいったんだろう。
テロリストならば多くの修羅場も通って来ただろう。
それなのにあんなにも無様に全員殺されてしまうものだろうか。
たった一人の手によって。
その一人について分かったことは拳銃使いであるということ。
そして一時間以内にあの場に行き、そして仕事を終えて去ることが出来る能力があるということ。
それ以外は何もわからない。
「今日は一段とお疲れみたいだ」
「…今日はあまり見たくないものを見てしまってね」
「生きていればいろんな日がある」
「ああ」
「だからたまには休むことも必要だよ、安室さん」
「…ありがとう」
にこりと笑うとナギさんは背を向けて片付けを始めた。
ふとソーサーに置かれたスプーンに写る自分を見ると目の下に隈が出来ていた。
…だから彼女は僕に休めと言って来たのか。
お節介な女だ。
彼女みたいな女には幸せになって欲しいものだ。
僕のこの国で。