「こんにちは」
「ナギさん、いらっしゃい」
ポアロで働いているとナギさんが来た。
白いワンピースに身を纏った彼女に店内の視線が向けられる。
カウンターでコーヒーを飲んでいた新一君が彼女を見た。
「安室さんの知り合い?」
「うん!梓さんとも友達なの。よろしくね」
「ふぅん、そうなんだ」
新一君が探るように彼女に声を掛ける。
残念ながらナギさんはただの知り合い。
探りを入れても何もないのだ。
「君はポアロの常連さん?」
「そんな感じ」
「名前聞いてもいい?」
「工藤新一さ。よろしく」
「私はナギっていうの、よろしくね新一」
「よろしく」
それからナギさんは新一君と話していた。
本格的に探偵業を始めた新一君は世間ではそこそこ知られるようになっていた。
ナギさんは知らなかったようだが。
「新一は探偵さんなんだ」
「まだ新人だけどね」
「凄いね。私は絶対無理…」
「どうして?」
「短気だから」
そう言って彼女は笑った。
新一君が帰った後ナギさんはまた本を読み始めた。
「ナギさんって意外と手が出るタイプなんですか?」
「すぐ出る」
「意外ですね。あなたから手が出るのは想像つかない」
「他人の考えを理解出来ない。だから沢山本を読むように言われている」
彼女が読んでいたのは有名な純文学。
繊細な心情を学ぶにはもってこいではあるが。
「人って本当に理解できない」
「僕もそう思います」
「だよねー」
そうナギさんが言い切ると、テーブルに置いた彼女の携帯が震えた。
「出てくる」
彼女は席を立って店の隅に移動した。
ナギさんは十分人を理解しているように見えるが…
人の思考を理解するのは難しい。
だからこそ学びたいなんて面白い人だ。
彼女について軽く調べたが特に不審な点は見当たらなかった。
普通に全うな人生を歩んでいるようだった。
前職はパワハラで辞めたようだが、それ以外は特筆すべき点はない。
彼女の父親が警視監であったが、特に彼女が警察に関わったこともなさそうだ。
僕が守りたい当たり前の幸せがそこにはあった。
「急用ができた、また来る」
「バイトのヘルプですか?」
「そんな感じ」
へへっと彼女は笑った。
彼女にも何か隠し事があるのだろうか…?
行動を見る限りその様子はない。
ポアロのバイトももうすぐ終わるし、珍しく急な仕事もないから尾行でもしてみるか。
「いってらっしゃい」
「ではまた」
彼女はそうしてポアロを出て行った。
片付けも程ほどにマスターにお店を任せて僕もポアロを後にした。