12

私がここで死ぬ確率は低いと思う。
まずここが他人の縄張りであるということ。
更に死体の処理が難しいからだ。

「中華……」
「好きだったろ」
「好きだけど」

店は当然貸し切りで、奥まった席にはすでに料理が用意されていた。
炒飯に小籠包に担々麺に餃子。
私の好きなメニューだ。

遠慮なく食べているのをじっと見られる。
これはまあ、いつもの事なので気にしたら負けだ。
ロアナプラでも中華はあったが、この味に比べれば貧相なものだった。
普通に美味しかったが。

「お前は呑気なのか度胸があるのか、相変わらず分かんねえ」
「どうだろうな」
「俺に殺されると思ってないのか」
「その可能性も考えた」

張の旦那は私のジャスミン茶を注ぎながら笑う。
担々麺の丁度いい辛さが体に染みる。
いつも零に健康バランス満点のお弁当を作ってもらっているので、体に悪い食事は久しかった。

「俺にあいつらの顔を直接確認させようだなんて、お前の上司もだいぶ肝座ってるようだな」
「この前も説教された」
「お前が本当に警察に飼われてることを確認出来て、俺はよかったけどな」
「そりゃよかったな」

旦那の顔から笑みが消えた。
私は箸を止めなかった。

「良い訳ねぇだろうが。お前、俺に黙ってロアナプラから去りやがったな」
「あの頃あんた仕事で忙しかっただろ、タイミングが悪い」
「俺のためなら死んでも会いに来いよ」
「本当に殺されると思ったから行かなかった」

私がロアナプラを去った理由なんざ、見当ついているはずだ。
寧ろこいつが知らない訳がない。
あの頃、傍から見てこいつは結構不安定な時期だった。
だからこそ殺されるか、良くて手足を捥がれると思った。
正直私だって、これは裏切りに値すると思っていたからだ。

「……悪かったな。お前が消えた理由は大体分かってる」
「そりゃそうだ」
「改めてだが、戻る気はないか」
「ないね」

私は箸を置いてジャスミン茶を飲み干した。
旦那の方に顔を向けると、奴は右の口角だけを少し上げた。

「まあそうだろうな」
「餃子っておかわりできる?」
「仕方ない奴だな」

下手に下手に出るべきではない。
威張るのも悪手だが。
新しい餃子に手を付ける。
もう腹八分目になりそうだった。

「6人目と9人目に見覚えがあると伝えておいてくれ」
「了解した。助かる」
「……易々とあいつの思惑に乗ってやるのも癪だが」
「じゃあ一つ貸しにしといてやる」
「お、いいなそれ。そうしとこう」

奴は嬉しそうにしていたが、私が出来ることなど限られている。
今は一警察官であるし、仕事もある。

「そろそろタイムリミットかな」
「お腹いっぱいだし」

来た時と同じ車に乗せられ、車は走り出した。
携えた拳銃を使わなくて済んだことに、ほんの少しだけ安堵した。

「携帯、あるだろ」
「はい」
「俺の連絡先登録しておいた。また連絡する」
「急に電話とかはやめて欲しい」
「はは、覚えてたらな」

花を一本貰って、私は最初の場所に降ろされた。
またな、と言われたが返事はしなかった。


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