「遅かったな」
現場に向かうとついさっき見たままの恰好をした彼女がすでにそこにはいた。
いつも文学書を持っていたはずの手には拳銃が握られている。
髪がまとめられていて眼鏡がないからか、いつもとは違う人物のように見える。
人の好い笑顔はそこにはない。
「初めましてと言うべきか、降谷零」
「初めましてということにしておこうか」
今回の任務は俺が上に頼みに頼み込んで実現したことだ。
つまり彼女は僕が彼女のことを調べていたことも知っているんだろう。
隠すことが面倒になったのか?
それともいつかバレてしまうならば、いっそ自分でバラそうと思ったのだろうか。
「死なずに着いてこい」
「手は出すなってことか」
「自分の身は自分で守れってことだ」
ゆっくりと扉に近付き、中の様子を伺う。
手にした銃を握りしめた。
彼女の冷めた目つき、そして慣れたような手際に驚く暇もない。
彼女の両手に握られたデザートイーグルがガチャリと音を立てた。
「行くぜ」
彼女はそう言うと扉を蹴破った。
そしてそのまま二丁の拳銃を敵にぶっ放した。
発砲しながら走る彼女を追いながら護身のため敵に銃を撃ち込んだ。
襲い掛かる敵は見事に死んでいく。
半分はすぐに死んだ。
敵も銃で応戦してくるが、そんなの関係なく殺された。
彼女は逃げる敵の頭を当たり前に撃ち抜いていった。
容赦ない銃弾の嵐に敵は成すすべもなく死んだ。
たった一人、この女によって。
そして残ったのは部屋に残った一人の少年。
武器すら手にしていない。
年端も行かない男の子だ。
ガチガチと歯を鳴らしながら俺達を見上げていた。
「神様…助けて、お願い…神様…」
「神は留守だ。マカオでカジノでもしてるさ」
バンッ、と最後に一つ銃声がした。
どうしようもない静寂が俺達を包んだ。
スカートの中のホルダーに拳銃を収めると、彼女は俺に振り返った。
「ここからは零に任せていいんだな?」
「…ああ」
「何か私に聞きたいことがあるんだろう?殺さないから言えば良い」
彼女は表情を変えずに言う。
下手な事を言えば殺される。
しかし僕にも尋ねたいことは山ほどある。
「…まず、何故俺達と行動しないんだ?」
「死なれると後味悪いから」
「僕はそう簡単に死なない。だから今後は僕と共に行動しろ」
「…は?」
「お前は危険過ぎる。上司として見過ごす訳にはいかない」
「えぇ…」
彼女は眉間に皺を寄せて明らかに嫌そうな顔をした。
この機会を逃したら次は何時彼女に会えるかわからない。
だから今しかチャンスはない。
彼女は何か考えるような仕草をして、それからため息をついた。
「わかった。零と仕事をするんだな」
「ああ」
「じゃあ手始めにこの現場をどうすればいい」
思ったより素直に従うらしい。
証拠品の扱い方、情報収集の方法を伝えると早速実行し始めた。
どうやら殺し以外の仕事も共にやってくれるらしい。
ただの殺戮マシーンではないようだ。
しんとした空気の中僕達はただただ作業を進めた。
「着替えてもいいか?これだとやりにくい」
「他の部下がじきに来るからお前は休むといい」
「お前じゃない。ナギだ。」
「…ナギ、帰ってしっかり休め」
「うん」
彼女はそう言って、そのままの恰好で街中に消えていった。
あんな化物みたいな女は初めて見た。
顔に薄い笑みを浮かべながら人を殺す様は残酷であり、手際の良さには魅了される部分もあった。
あの惨劇に少しでも見惚れてしまった何て、僕も相当おかしくなっている。