勅使河原美優という人物について、俺は少しだけ考える。
勅使河原から英語を学び始めてからもう半年は過ぎる。
目の前で英語を操るこの女は一体全体何者なんだろうか。
最初は月島軍曹が連れてきたと聞いた。
未来から来たと説明を受けたときは冗談だろと思った。
実際対峙してみるとその文化の違いや言葉の違いでそれが本当なのだと思い知らされた。
この女は現代では有り得ない程に博学で驚かされた。
英語だけではなく中国語も少しは出来ると言っていた。
それにしてもこの女は誰にでも馴れ馴れしく絡んでいく。
俺にさえ事あるごとに絡んでくるので邪魔で仕方なかった。
しかしそれも繰り返されればそれが当たり前のように感じてしまう。
飲み会では兵士たちに酒を煽り、煽り返されても酒を飲み干す姿はまさに酒豪だった。
勅使河原のいる生活が当たり前になってきていた。
その日も例も違わずこの女が俺に絡み始めると、別の兵士がそれを見て「流石山猫は取り入るのが上手い」と詰った。
どういう意味?と女が言うと、尾形上等兵から詳しく聞きなと言ってそいつは去っていた。
このとぼけた女が素直に質問してきたので俺はそれに答えてやった。
「妾だから何?何であんなこと言われなきゃいけないの。正規の息子がそんなに偉いのかよ?っていうか猫可愛いよね。私猫飼いたかったんだ〜」
と訳の分からないことを言っていた。
意味の分からない発言のせいで何の話をしていたか忘れてしまった。
鯉登少尉が勅使河原と仲良くしておけと、鶴見中尉から指令を受けていた。
そんな指令をしなくともあの女は誰とでも仲良く馴れ合おうとしてくるというのに。
鯉登少尉が勅使河原に声を掛けている姿を何度も見た。
あれは指令だけじゃない、本心で勅使河原に惚れている可能性がある。
ボンボンの鯉登少尉に未来から来た能天気女、お似合いじゃないか。
鯉登少尉が旭川に出向いてしばらくして、俺の英語講座は始まった。
案外この女は教えるのが上手かった。
半年もすれば日常会話は問題なく出来るまでには上達した。
それにこの半年、この女と話す機会も増えてしまっていた。
殆どはこの女が勝手に喋り、時折俺が何かを質問する程度だったが。
この女は事故で両親を亡くしたと言っていた。
悲しくて死を考えたと言っていたのできっと愛されて育ったのだろう。
そうでなければこんな風に育つことはない。
この冬、俺は父親を殺していた。
この女が向けてくる笑顔が眩しくて仕方なかった。
直視すると瞳の奥が焼けるように熱くなった。
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