◎5
紫が超能力者だと知ったのは本当に偶然だった。
肩に付かない程の髪が夕日に当たって綺麗だったことは覚えている。
黒目がちな目は俺のことなど興味がないと語っていた。
超能力者だからだということもあるが、とにかく俺は紫のことが知りたくてたまらなくなった。
話していても紫は普通の女子高生で、まさか超能力者だとは思えない。
「さっきの男は何者なんだ?」
「超能力者の子どもを狙う人たちですよ」
「紫も大変なんだな…」
超能力者だというだけで誘拐される可能性があるのか。
紫はきっといままでもにもこういうことを経験している。
一人暮らしだというのもきっとそれが理由なんだろう。
ふと視線を向けると紫はハンバーグを幸せそうに食べていて、その顔が何故だか好きになった。
それを伝えたら顔を赤くしたあたり、若いなあと俺は思った。
「涙目になってるぞ?もしかして眠いのか?」
「ちょっと、いやかなり眠いです」
「腹いっぱいだからか?」
「それもあるんですけど超能力使ったかr…」
そこまで言ってから、言ってしまったと紫は顔を伏せた。
「誰にも言わねぇから安心しろ。能力のことも眠くなることも」
「…ありがとうございます」
紫はそう言った。
少し恥ずかしそうに笑った顔が可愛いと思った。
「眠いところ連れ出して悪かったな」
「いいんです。先輩が奢ってくれるし」
「なんだそれ。金欠の大学生かよ」
「まあ私一人暮らしなんで…」
「そう、だったな」
紫は一人暮らしをしていて、それはきっと誘拐されることに関連している。
攫われる危険性があるのに、紫はあえて一人暮らしをしているんだ。
突っ込んではいけない話題に突っ込んでしまった気がして、俺は視線を下げた。
そんな俺を見て紫は少し眉を下げた。
「先輩が気にするようなことじゃないですよ」
紫はふっと笑って言った。
そんな顔をしないで欲しいと俺は思った。
さっきみたいな幸せそうな顔をしていて欲しい。
もしかして、友達も満足にいないのかもしれない。
それなら俺が、紫の一番の友達になってやろう。
「じゃあ、俺と友達になろうぜ」
「友達ぐらいいますけど」
何とか絞り出した提案はあっさり却下された。
mae tsugi
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