◎4
渚が何故か俺に屋上の鍵のスペアをくれた。
あいつ何者なんだ…
授業が終わってから紫と遊んだり勉強するのが日課になっていた。
今日は勉強する約束だったけど、せっかくだし屋上でも行くか。
俺も紫も屋上行くのとか初めてだろうから、絶対紫喜ぶよな。
そう思って思わずにやけた顔を抑えた。
俺もう末期なのかもしれない。
「あれ、先輩も屋上の鍵持ってるんですね」
「え?」
「前渚と屋上でお昼食べたんです」
「なんだよ。俺も呼べよ」
「ああ……いや、それは…」
紫は何かを思い出したようで、急に顔を赤くして下を向いた。
何か照れているらしい。
「どうした?」
「…何でもないです」
紫はそう言ってスタスタと歩いて放置されたベンチに座った。
もしかしたら前ここで弁当食ったのかもな。
俺も紫の隣に座って沈もうとしている太陽を見た。
屋上は夕日に照らされてオレンジ色に染まっていた。
「綺麗だな」
「そうですね」
ふと紫を見ると、その顔もオレンジ色に染まっていた。
何かを考えるように紫はじいっと夕日を見つめていた。
見すぎたのか紫は俺の視線に気付くと、こちらを向いた。
「何ですか」
「好きだ」
「は?」
正直言うつもりはなかった。
言ってしまったらこの絶妙にバランスのとれた関係が崩れてしまうような気がしていた。
それでもその言葉は俺の口から滑り落ちた。
紫は急に下を向いてしまった。
これは恥ずかしがっている証拠だ。
頬に手を当てて上を向かせようとすると、その手を紫が抑えた。
「今、酷い顔をしてるんです。だから見せられません」
「俺はその酷い顔が見たいんだよ」
力のこもらなくなった紫の手をほどいて、顔を上に向かせた。
紫は抑えきれなかったらしい涙をその目からポロポロと落とした。
泣かせたかった訳じゃないんだけどなぁ。
「私も、好きです。あなたが好きです」
「おう」
「家族からも離れて、ましてや恋人なんて。これ以上大切な人なんて作る気もなかった。でも、でもあんたのっ…あんたのせいだ……うぅっ」
紫はそこまで言ってから大きな声を上げて泣き始めた。
流れ落ちる涙も鼻水も構わずに紫は泣き続けた。
沢山苦労したんだろう。
それに沢山悩んだんだろう。
紫を抱きしめてやると、背中に紫の手が回された。
泣きやむまではこのままでいてやろう。
紫の流した涙が夕日を反射してキラキラと輝いていたのを俺は多分ずっと忘れない。
mae tsugi
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