◎2
新隆を最近見なくなった。
私を待ち伏せするようなことが無くなった。
もしかしたら彼は私に構うのに飽きたのかもしれない。
昔の遺恨を清算出来て、彼は満足したのかもしれない。
あんなにしつこいと思っていたのに、いざすっかり来なくなるとそれはそれで寂しいものだった。
うーん…何で私はこんなに新隆のことを考えているんだ?
彼は所謂元カレってやつで、新隆にもきっと彼女やらがいるかもしれないのに。
しつこいのは私の方だったのかもしれない。
「春夏秋冬先生、この後何か予定ってありますか?」
「ごめんなさい。今日は友達とご飯に行く約束があって」
「そうなんですね。最近春夏秋冬先生が落ち込んでいるみたいなので何か相談に乗れたらな、と思っていたんですけど…また次の機会にしておきます」
「…ご心配をおかけしてすいません」
「僕が勝手に心配してるだけですから」
四月一日先生はこんな時でも優しかった。
傍から見た私は落ち込んでいたのか。
何に落ち込んでいる?
まさか新隆が来なくなったことに?
アホらしい。
こうなるかもしれないと私は分かっていたはずだ。
少し化粧を濃く直して、いつもより少し派手な服を着て私は学校を後にした。
「紫」
「渚…」
待ち合わせの場所に着くと渚が手を振って私を呼んだ。
金曜日の夜ということもあっていつもより人が多い。
店は渚が予約してくれたいつもの店。
個人経営で雰囲気のいい広くはない居酒屋。
こまめに連絡を取り合っているから特に新しい話題はない。
日本酒を頼んで、私は煙草に火をつけた。
お酒に強くはないが、今日は少し酔いたい気分だった。
「紫、最近疲れてる?」
「そうかな…今日も四月一日先生に落ち込んでるって言われたけど」
「やっぱりね。四月一日先生とはどうなの?」
「どうって…一緒にご飯行くぐらいだよ」
煙草の煙が排気口の方へ流れて行った。
一緒にご飯に行く同僚であり友達ってとこなんじゃないかな。
そう言うと渚は顔をしかめた。
「紫ってホント昔から変わってないよね。ホント鈍感」
「どこが?」
「四月一日先生はあんたのことが好きなのよ。絶対ね」
「そうかな…でもそんなこと言われたこともないし…」
一緒に食事をして学校のことや生徒のことを話したりしているだけだ。
それに、もし四月一日先生が私のことを好きだとしてもその私は本来の私じゃない。
春夏秋冬先生の前では煙草を吸わないし…ただあまり表情を作ることは少なくなってきたのかもしれない。
四月一日先生が私を好きだとして、私はどうなんだろう。
「紫は、誰に自分を知って欲しい?」
「自分を知って欲しい、か」
「そうね…じゃあ美味しいものを誰と一緒に食べたい?」
「……」
「あんたは食べることが好きでしょ。一体誰と一緒にハンバーグを食べたいのかしら」
渚は意地悪だ。
私の答えなど知っているくせに。
そんなの一人に決まっている。
「紫、顔真っ赤。どうしたの?」
「…うるさいな」
私はまた下を向いた。
このだらしない顔を誰にも見られたくなかった。
mae tsugi
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