◎3

10年来の友達は、それはそれはめんどくさい人間だった。
10年前とは変わって綺麗になって大人びてカッコよくはなったけれど、本質は変わっていない。
ただの不器用で捻くれた臆病な女だ。
今日だって酒の力を借りて、普段カッコ付けてる分私に甘えてくるのだ。
可愛い奴め。
早く自分の気持ちに素直になってしまえばいいものを。
紫の頭の中にはあの男一人しかいないことを私は知っている。
社会的地位?格差?
そんなものは関係ない。
紫にはあいつしかいないんだ。

「渚〜一緒に帰ろ〜?」
「ダメよ。旦那が待ってるの」
「え〜寂しいよぉ…」

私の腕を掴んで離さない紫にため息をつく。
旦那が家で待っているけれど、紫をこのまま放っておくことは出来ない。

「紫、携帯借りるわよ」
「うん…何するのー?」
「いいから」

紫から携帯を奪い取ると目当ての連絡先を探した。
電話をかけながら、さっきまで泣いていた紫を思い出した。
馬鹿な女だ。
理性だけが働いてるのね。
自分が好きな相手に自分から連絡も出来やしないなんて。
それ以前にまず自分が相手を好きだと自覚すらしていないなんて。
高校生の時を思い出す。
あの時も同じだった。
紫は自分の中で結論を出すことが苦手だった。
超能力があったからこそ紫は無駄に苦労してきた。
だからこそ私は紫を幸せな方へ導いてやりたい。

きっと例の四月一日先生と結婚すれば紫はいい生活を送れるだろう。
二人とも教師で生活は安定しているし、聞く限り彼は好青年だ。
でも多分、いや絶対紫はあの男のことを忘れられないだろう。
霊幻新隆。
10年前、紫が命懸けで守ったあの男でないと昔と今の紫は報われない。
しっくりこない。
だから私は助ける。
あいつが憎かった時期もある。
でもやっぱり、何年経っても紫の隣に立てるのは霊幻新隆だけだと、今の私は思うのだ。

「渚、私ってバカなのかなぁ」
「そうかもしれないわね」
「私って新隆が好きなんだね、知らなかった」
「私は知ってたわ」
「昔に縛られて、馬鹿な女だと思わない?」
「そんなことないわ。紫は昔も今も、純粋なだけよ」

計算的でも打算的でもなくただただあいつが好きなんだ。
こんなにも純粋な女は紫ぐらいしか私は知らない。
そんなことを話していると、紫の携帯に連絡が入った。
もう近くに来ているらしい。
気の利く男だ。
水の一本ぐらい持ってきているだろう。

「紫、飲み物買って来るからここで大人しくしてるのよ」
「すぐに戻って来て。どこにも行かないで」
「わかってるわ。だからこの手を放して」

私の腕に絡みつく紫の腕に触れると紫は大人しく手を放した。
紫にとって人が離れていくことはとても怖いことなんだとあいつは言っていた。
だからきっと、あいつがまた傷ついて離れてしまうかもしれないことを紫は恐れている。
だから先に進めない。
10年前から今までも、紫の全てはあいつだった。

「…久しぶりね」
「ああ。お前も大人になったな、渚」

10年ぶりに会う霊幻新隆は思ったよりも変わっていなかった。
人のよさそうな男。
その手にはコンビニで買ったであろう水があった。
それにビニール袋。

「紫はそこにいるわ。後は頼んだわよ」
「任せとけ」

私はそうして霊幻新隆と別れた。
うまくやってくれるかしら。
後ろ髪を引かれる思いで、私はその場を後にした。





mae tsugi

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