◎2

ここで私は本気を出せばもしかしたら、いやきっと敵はみんな消えるのだろう。
でもそうしてしまったら私は力を制御出来ずに新隆までも消してしまう。
そうしてしまったら私はもう、どうしようもなくなってしまう。

「走るよ」
「…ああ」

新隆の手をしっかりと握って、私は目の前の男とは逆方向に走り出した。
新隆でも着いてこれる最大限のスピードでここを一旦去ることしか、解決策はない。
私達を囲むバリアと敵からの攻撃がぶつかる音が響く。
走りながら集中力を保つことは難しい。
本格的な戦闘なんて、私はそんなにしたことがない。
攫われない程度に自分の身を守ることしかしてこなかった。
でも今は違う。
守りたい人が隣にいた。

後ろで最後のバリアが避ける音がした。

「っ、…あ」

後ろを向いた時にはもう遅くて。
私は初めて人の横腹が抉られた姿を目にした。
血が飛び散って、私の顔に付いた気がする。
繋がれた手から力が抜けた。
私の手からも力は抜けて、新隆の手がべちゃりと落ちた音がした。

「クソッ!!お前を狙ったっつーのに…」

敵の男の声がした。
私を狙ったらしい。
新隆は私を庇ってこんなことに。
新隆を見下ろすと、そこには血の海が出来ていた。
新隆は荒い呼吸を繰り返しているらしく、肩が大きく上下しているのが見えた。
声を掛けることすら出来なかった。
声なんて一つも出なかった。

「…お前、泣いてるのか?」

敵の男がそう言っていたから、私は自分が泣いていることに気が付いた。
悲しくて泣いているの?
それとも自分の不甲斐なさを泣いているの?
最近は嬉しい時にしか泣いてないからわかんないよ。
ねえ新隆。




mae tsugi

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