◎4

今日は事務所を休みにした。
紫と話をするために。
10年前、俺はあいつを見捨てた。
何か月か眠ったままのあいつを置いて、俺は卒業してその地を離れた。
紫と話すなんてのは、あいつが眠る前にした下らない話以来だった。
きちんとスーツを着込んで、俺は紫の待つレストランへ向かった。

「新隆」
「…紫」

綺麗なワンピースを着て、化粧もばっちりしている紫は昨日以上に美しかった。
長い髪もまとめられていて、俺は不覚にもどぎまぎしてしまう。
今も昔も、紫には心を動かされてばかりだ。

「ここの店、半個室になってるから話すにはもってこいの場所だと思って」
「ああ、わざわざ悪いな」
「気にしないで」

そう言って微笑む紫は、なんだか昔と変わらないような気がした。

「何ぼーっとしてるの」
「…悪い」

紫は少し馬鹿にしたようにふっ、と笑った。
ああ。
そんなに笑顔を見せないでくれ。
心臓に悪すぎる。


mae tsugi

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