18
由奈さんに事の顛末を聞いた俺はしばらく何も言えなかった。
慰めるのも違う気がした。
話から推測するに、サトリは女バスの先輩の好意に気付いていたし、強姦未遂を防ぐことだってできた。
でもそれをしなかったのはサトリのエゴだ。
完璧に自分のものにしようとしてミスったんだな。
だからあいつは由奈さんと付き合ったりしないのか。
付き合わず、それでいて由奈さんを守るために今のサトリは最適なポジションだ。
木吉の膝を壊したのが俺だと知っていたのも意外だった。
知った上でこんなに仲良くしようとしてたのかよ。
本当にバカだ。
でもそのバカに振り回される俺はもっと馬鹿だ。
「話したらすっきりしたぁ」
「…そうかよ」
「暗い話に付き合わせてごめんね」
「気にしてねーよ」
「そ、そっか…」
由奈さんはミルクティーを飲んでいる。
俺はブラックコーヒーを啜った。
握ったままの手からは震えが消えていた。
「は、花宮くん手…」
「は?手がなんだよ」
「手が…」
由奈さんは握られたままの手に視線を落とした。
頬がほんの少し赤く染まっていた。
離してほしけりゃそう言え。
「ハッキリ言えよ」
「手が、握られています…」
「そうだな」
由奈さんは完全に固まった。
唸っている由奈さんを見てこいつは本当に俺の一個上か?と思った。
それにしても、こんな初心な女がいきなり強姦未遂だなんてホント災難だったんだろうな。
柄にもなく同情する。
「もう少し握っていてもらえますか」
俺はコーヒーを吹き出した。
由奈さんが俺を見て驚いた顔をしていた。
「な、なに言ってんだバァカ!てめぇが歩くの遅いから握ってやってただけだ!誤解すんじゃねぇよ!」
「ご、ごめん…」
「………あの店のブラックチョコレートラテで手を打ってやるよ」
「ホント?」
「ああ」
パーク内のカフェを指せば由奈さんは笑って立ち上がった。
何だか久しぶりに由奈さんの笑顔を見たような気がした。
「行こう!」
俺達は手を繋いだまま店に向かった。
繋がれた手を由奈さんが振り回していた。
早速調子乗るんじゃねぇよ。
手から伝わる暖かさに、俺は心の中で少しだけ笑った。
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