20
自販機の前で由奈さんが茫然としていた。
何してんだ。
「おい何してんだブス」
「押すボタン間違えた…」
「ふはっ、ホント馬鹿だな」
「う…たしかに…」
由奈さんは握りしめたブラックコーヒーの缶をしょんぼりと見つめた。
どこまで抜けてるんだこの女は。
「何買いたかったんだよ」
「コーンスープ」
鞄から財布を出して自販機に入れても由奈さんはまだ気付かない。
何か飲みたいのかな、みたいな顔してやがる。
コーンスープのボタンを確実に押してやる。
俺は間違えねぇぞ。
「はい」
「……くれるの?」
「やるからブラックコーヒーよこせ」
「え、あ、ありがとう!」
やっとわかったのかよ、このバカ。
由奈さんは嬉しそうにコーンスープを飲み始めた。
俺もコーヒーの缶を開けた。
少しぬるくなっていたけど、これはこれで悪くはない。
「そうだ。花宮くん今夜暇?」
「暇だけど」
「家来ない?」
俺はコーヒーを吹き出した。
あ、デジャブだこれ。
「は?!何でてめーの家になんか行かなきゃいけねーんだよ!確かに前より仲良くはなったけど家行く程じゃねぇだろ?!サトリでも誘えよバァカ!!」
「そ、そんなに嫌だった…?ごめん…」
「………嫌、じゃないけど…何で誘ったんだよ」
「てっちゃんが泊りに来るんだけど花宮くんも誘って家でご飯食べようってことになって…」
「は?すげー行きたくなくなった」
「そんなぁ…」
何少しでも期待してんだ俺は。
というか何を期待したんだ俺。
まさか、由奈さんと俺が由奈さんの部屋で二人きりになることを?
もしそうだとしたら俺はもう完全にダメだ。
「残念だなぁ…せっかくてっちゃんに花宮くんと仲良くなったところ見せようと思ったのに…」
「……」
「じゃあね花宮くん。また明日だ…」
少し肩を落として由奈さんは俺に背を向けた。
でも、これはもしかしたら何かのきっかけになるかもしれない。
何となくそう思った。
「由奈さん」
「ん?」
「やっぱ行くわ」
そう言うと由奈さんはにこりと笑った。
「じゃあ五時に校門で待ってて」
由奈さんはもう一度笑った。
笑うんじゃねえよ。
何故か顔が緩む。
その笑顔に、俺は至極弱いらしい。
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