酒ってすげぇ。
俺は酒の凄さを思い知った。
何故かって?
由奈さんが俺にもたれかかってぼうっと宙を見ているからだ。
目の前でサトリが笑っている。

「懐かれとるなぁ、花宮。よかったやん」
「いや、…急展開についていけねぇ…」

急な身体的接触に対してはどう対処すればいい。
今由奈さんは記憶があるのか?
サトリの前で、この女を手駒にするにはどうすればいい。

「由奈さん、大丈夫ですか?」
「うん〜大丈夫だよぉ」

ヘラヘラと由奈さんが笑う。
こんな顔も出来んのかよ。
兎も角記憶はあるみたいだ。
取りあえずサトリの目の届かない所へ連れ出せば後はこっちのもんだ。
この女は俺が思っているよりは賢くはないとふんだ。

「ここ暑いしちょっと外出ませんか?」
「……」

由奈さんは笑みをじんわり消した。

「嫌だ。絶対に嫌」

由奈さんはそう言って瞳に涙を浮かべた。
それからボタボタと涙を流した。

「あーあ、花宮。由奈にそれは禁忌やで」
「…チッ…知ってたのかよ」
「当たり前やん。由奈、こっちおいで」

由奈さんは俺から逃げるように泣きながらサトリの隣に座った。
化粧も気にせずに由奈さんは目を擦って溢れ出る涙を拭っている。
クソ…きっとサトリはこうなることすら分かっていた。
こいつはどこまで行っても性悪だ。

「由奈、ワシがついとるから安心せえ」
「うぇ、ううう」
「目ぇ擦ったら腫れるでぇ。可愛い由奈の顔が台無しや」
「うううぅ…」
「弟君に迎えにきてもらおか」

由奈さんは小さく頷くとサトリに携帯を渡した。
由奈さんは独り暮らしのはずだ。
弟君とやらが泊りにでも来てるんだろう。

由奈さんは泣いているしサトリは由奈さんの頭を撫でてあやしている。
俺ってもしかしなくてもすげー邪魔?
サトリは由奈さんの携帯で電話をかけ始めた。

「由奈が酔うてしもうたから迎えに来てくれん?え、ああ駅前の居酒屋や。おう、また試合しようや木吉くん」


ちょっと待て。
今最後すげー聞き捨てならない言葉が聞こえた。

「木吉…?」

由奈さんの名字なんて気にしたこともなかった。
大学の付き合いなんてそんなもんだ。
でもまさか、名字があいつと同じだなんて。
いや、でもヒントは確かに転がっていた。
和菓子、弟とよく似ているぼんやりした性格。

「木吉の、姉貴か」
「やっとわかったんか」

色素の薄い髪、弟と同じようなプレースタイル。
言われればすぐにそれらが合致した。

「花宮、行くで」
「は?」
「由奈運ぶの手伝ってくれるやんなぁ?」

そう言ってサトリはまた笑うのだ。



 

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