「花、宮…」
「……」

正直俺は動揺していた。
花宮がいるなんて聞いてないぞ。
これはきっと今吉さんの策略だ。

「すまんなぁ。ワシの前なのに花宮が由奈を泣かせてしもうて」
「いや、大丈夫です…」

姉ちゃんがフラフラと俺に近付いて来たから抱き留めた。
花宮が、俺達が勝った試合の時のような表情をしていた。
信じられないのだろうか。

「俺達って縁があるんだな、花宮」
「チッ…またてめぇと面合わせることになるとはな」
「はは、………何で姉ちゃんを泣かせたんだ?」

姉ちゃんは俺の腹に顔を埋めてグスグスと鼻を啜っている。
また昔のことを思い出したのだろうか。
それとも思い出させられたのだろうか。
花宮が全て知っていて、それでいて姉ちゃんを泣かせたとしたら。

「俺のことはいい。姉ちゃんのことだけは傷つけるな。」
「っ、」

姉ちゃんが回復してきた時期だからこそ、俺は今までよりも姉ちゃんの味方でいたい。
酒を飲んで姉ちゃんの理性が少し薄れて情動的になっていることはわかっていた。
それでも、姉ちゃんを泣かせた花宮が許せなかった。
握った拳には知らないうちに力が入っていた。

「花宮は知らんかってん。だからそんなに責めるのはやめたってぇな」
「……そうなのか?」
「何をだよ」
「…知らないんだな。それならいいんだ」

知らないのなら仕方ないんだ。
知らなければ姉ちゃんを傷つけてしまう一言だって言ってしまうかもしれない。
分かっていた。
頭では分かっていた。
でも泣いてる姉ちゃんを見ていたら花宮を許すことなんて出来なくなっていた。

「もう、姉ちゃんに近寄らないでくれるか?」
「…何でてめーに指図されなきゃいけねぇんだバァカ」
「姉ちゃんは俺の家族だから。だから俺が守る」

気付けば姉ちゃんは立ちながら寝ていた。
姉ちゃんの寝息だけが聞こえていた。

「まあ花宮もちっとは反省しとるみたいやし、そう言わんといてぇや」
「…どこがですか…」
「そろそろ由奈が男に慣れるのも必要やとワシは思うんやけどなぁ」
「……」
「大丈夫や、安心せえ。花宮ならワシが手綱握っといてやるさかい」

今吉さんが俺を諫めるように言った。
今吉さんは姉ちゃんを大切にしてくれている。
言葉で言われなくても分かっていた。

「信じても、いいんですか」
「ああ、任しとき」

今吉さんはそう言って笑った。



 

ALICE+