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さつきが選手のデータ収集をしている間、私は掃除や洗濯をしている。
だから私はバスケについてはいまだによく分かっていない。
マネージャーとしてはあるまじき事だとは思うのだが、特に不便もないから覚えようと思ったことはない。

合宿も残り一日となっていた。
さつきとこうやって話すことも少なくなるのだと思うと少し寂しく感じる。
さつきは純粋で真っすぐな女の子だ。
しかも可愛いし私に懐いている。
最高だ。

「澪梨と一緒に居られるのもあと一日かー…澪梨は二軍と三軍のマネだから仕方ないけど寂しい…」
「私も寂しい…」
「こんなに仲良くなれたのに…」

役割を分担しながらのマネージャー業というのは楽しかった。
仕事なのに楽しい、というのは私にとって初めての感覚だった。
どうやら一軍には一年生のマネージャーがさつきしかいないらしい。
だからこんなにもさつきは寂しそうにしてくれているのだ。
ちなみに二軍三軍には私しかいない。
人とやるマネージャー業に体が慣れ始めていた。

「菅田さんを一軍のマネージャーにしてもらうよう頼もうか」
「そんな事したら二軍と三軍が困ると思う」
「入れ替えればいいさ」
「…赤司君は時々酷いことを言うね」
「そうでもないさ。それがベストだと思ったまでだ」

中学一年生にしてマネージャーをごっそり入れ替えればいいと言うなんて。
流石赤司財閥の帝王学を学んだだけある、というか…
やはり彼はどこか感覚が違うらしい。
他のマネージャーの意見など聞きもせず、赤司君はきっと実行するのだろう。

「先輩達から反感を受けると思う」
「大丈夫さ。君は口が立つ」
「まあ、そうだね」

そんな会話も虹村先輩のいただきます、という大きな声によって打ち切られた。
もし私が二軍と三軍を離れることになると、黒子君が少し心残りだ。
彼には頑張って欲しいし、大好きなバスケを嫌いになって欲しくないと思うのだ。

今日の晩御飯はハンバーグだった。
私ハンバーグとかお子様ランチに入ってそうな物大好き最高ありがとう。








「は…?肝試し…?」

私はその言葉を聞いて愕然とした。
普通に無理だ。
強制じゃない限り部屋で大人しくしていよう。

「一年生は強制参加だよ〜」
「ふざけんな」

紫原君に与えていたお菓子を思わずぶち折った。
紫原君が悲しそうな顔をしていた。
ごめん。

「澪梨ちんって怖いものダメなの?」
「さあ……?」
「怖いんだ〜」

実はお化け屋敷がトラウマになっているのだ。
小学生の時、肝試しで号泣して過呼吸になりかけたレベル。
こういう時は紫原君を見て落ち着こう。
彼は妖精みたいなので見ていると落ち着くのだ。
無心でお菓子を頬張る姿が可愛くて仕方ない。

「ペアのくじ引きだ」
「…はい」
「…怖いものが苦手なのか」
「はは…さあね…」

赤司君がくじ引きを持ってきた。
これって男女混合なのだろうか。
出来ればさつきと組みたい。
でもまあ、さつきも苦手そうだからそうなれば地獄だ。
クジを引いて赤司君に番号を伝える。
アラサーとして泣き叫んだりするような恥ずかしい姿を中学一年生に見せる訳にはいかない。

「さつき…」
「肝試しだねー!楽しみ!」
「凄い…」

さつきに裏切られた。
私は全然楽しみじゃない。
女は度胸!とか言ってる…
そうこうしているうちにペアが発表された。

「…赤司君…」
「よろしく」

マジか…
赤司君とか一番組みたくなかった…
まだ紫原君とかがよかった…
絶対に泣かないと心の中で決めた。





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