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期末試験最終日は部活が休みで、放課後脱毛サロンに向かおうと決めていた。
脱毛はやっぱり痛い。
でも将来のためだと思って我慢するのだ…
頑張れ私。
二度目の人生は謳歌してやるって決めたんだから!

外はもうすっかり寒くなっていて、マフラーが手放せない。
そろそろ雪でも振るんじゃないだろうか。
部活は相変わらず何だかんだ楽しかった。
私にデータを取りに行かせようとかいう話を少し聞いたが、それが事実かはわからない。

「澪梨、来週の水曜日空いているか?」
「空いてるよ」
「父に映画の割引券を貰ったのだが一緒にどうかと思ってね」
「私でいいのかな」
「ああ、澪梨がいいんだ」

おお…これはちょっとキュンとした。
普通に恥ずかしいじゃん。
しかしよくそんなキザなセリフが言えるな…
征十郎も成長したんだね…

「じゃあありがたく同行させてもらうね」
「ありがとう。じゃあ10時に駅前でいいかな」
「うん。楽しみにしてる」

…もしかして、これってデートってヤツなんじゃない?!
アラサーにして初めてまともで健全なデートするかもしれない…
うわあ、急に恥ずかしくなってきた。
よくあんなすました顔で受け答えできたな私…
普通にデートのお誘いじゃん…
嬉しすぎじゃん…
オシャレしてこ…
化粧もちょっとぐらいしてこ…












髪を緩く三つ編みにまとめて、黒いワンピースを着た。
ブーツを履くと背筋が伸びるような思いがした。
なんせ初めて異性と二人で出歩くのだ。
緊張するに決まってる。
まあ、征十郎はそんなことないとは思うけど…
彼のことだから今までにもデートなんて掃いて捨てる程経験してきたんだろう。
これだってたまたま私が仲のいい友人だったから誘っただけなのだ。

待ち合わせ場所に着くと、そこにはすでに征十郎がいた。
紺のMA-1に白いニットにジーパンというシンプルな恰好は彼にとても似合っていた。
征十郎は何をしても似合うところが本当にずるいのだ。

「ごめん、待たせたよね」
「俺が早く来すぎたんだ。行こうか」
「うん。ありがとう」

征十郎について映画館に行く。
映画を見るなんていつぶりだろうか。
最後に見たのは戦時中の映画で、一人でぼろ泣きした気がする。

「何かみたい映画はあるか?」
「特にないよ」
「このホラー映画とか面白そうじゃないか?」
「やめてよ…」
「はは、冗談さ。これはどうだろう」
「…私多分これ号泣するけど」
「構わない。行こうか」

征十郎がチケット売り場に向かったので追いかけた。
金はいい、と言われたので大人しく引き下がってしまった…
紳士だ……

戦争で生き別れになった夫婦が再会する、という内容の映画だったと思う。
多分、普通に感動して泣く。
折角化粧してきたのにな…
それもあるけど、普通に中一に泣き顔見られるのが恥ずかしいのだ。








「落ち着いてから出よう」
「うぅ…ご、ごめ…ありがと……」

自分でも引くぐらい泣いてしまった…
荒んだ心に感動的なストーリーが沁みまくってしまったのだ…
そして背中を摩る征十郎の優しさが心に染みるのだ…

「おちついた、…ありがとう…」
「そうか、よかった」
「行こうか、ごめん」
「謝らなくていい。いい映画だったしね」
「うん、いい映画だった…」
「化粧を直してくるだろう?ここを出た所で待ってる」
「!あ、ありがとう…」

促されるままトイレまでちょっと走った。
征十郎ってもしかして物凄い大人なのでは…?
中学一年生が女子の化粧を気にするって凄くないか?!
本当に凄い…
将来が楽しみだ。
急いで化粧を直して小走りで征十郎の元へ向かった。

「澪梨は案外感情豊かなんだな」
「そうかな」
「最初は澪梨は大人びていると思っていたんだが、間違いだったようだ」
「間違いじゃないし!私割と大人びてるから」

っていうかホントはアラサーだから!
中一にバカにされている気がする…
でもまあ、多分征十郎は私の人生よりも濃密な人生を過ごしてきたんだ。
じゃないと、こんな子供にはなれない。
普通の子供じゃあ耐えられないような厳しい環境で育ったんだろう。

「ははっ、澪梨といると本当に飽きないよ」
「そう言って貰えて悪い気はしないけどさ…」

征十郎は優しく微笑んでいた。
彼にとって私が息抜き出来るような場所になれればそれでいいや。

「何か食べたいものはあるか?」
「特にないよ。なんでも食べる」
「ちょっと気になる店があるんだが、行ってもいいだろうか」
「いいよ、行こう」

昨日の夜とかにお店を調べたんだろうか…
可愛い所もあるじゃん。
連れて行ってくれた店はちょっとおしゃれなレストランだった。
中一でもなんとか出せる価格帯だったから安心した。

「今度桃井とデータを取りに行ってみないか?」
「いいよ」
「なら次の日曜日、データを取りたい学校が練習試合をやるから一緒に行ってくれ」
「わかった」

本当にデータを取りに行くらしい。
人のデータを取るなんてやったことないけれど大丈夫だろうか。
まあさつきを見て要領掴んでいけばいいかな。

それから征十郎と勉強の話とかそんな下らない話をした。
日が落ちてきて私達は別れた。
何か、凄い充実してた。



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