17

黄瀬君から連絡があった。
彼とは席替えで席が離れてから話す機会が少なくなってしまったからこれには驚いた。
どうやら勉強がどうにも立ち行かないらしい。
私達は中学生らしく学校の図書館で勉強を始めた。

「うっわ…思ったより頭悪いんだね」
「菅田さん酷いっス…」

青峰君程度のアホだった。
よく今までのテスト凌いで来たなってぐらいだ。
それからは青峰君に教えるみたいに出来るところまで噛み砕いて教えた。
段々と黄瀬君も分かって来たみたいだ。
素直な反応を見ていると教え甲斐があると思うのだ。

「ホント助かったっス!今度のテストは赤点免れる気がする!」
「そりゃよかった」

本当に黄瀬君は犬みたいだ。
感情が素直に吐き出せる所を羨ましいと思ってしまうのだ。

「…菅田さんって結構冷めてるよね」
「うん。そうだね」
「でも俺の勉強見てくれたりして優しいし、よく分かんないっス」
「私も自分のことよく分かってないからね」

私のことなんて私が一番分かっていないのだ。
自分というのはそういうもんだと思っていた。

「俺、菅田さんみたいに普通に接してくれる女の子初めてなんスよ」
「そんな女なんてこれから沢山出会うよ」
「うーん、違うっス…もっと…こう、平等なんスよね。菅田さんって。誰にだって平等に、同じだけ首ツッコんでるみたいっス」
「……」

あまりにも的確な表現に、私は驚いた。
中学一年生のその素直な感想に、私は思わず心打たれたのだ。
そうだ。
私はこの世界の部外者なのだ。
だから私の周りのことなんてそこまで気にしていなかった。
自分の満足行く生活だけを考えてきた。
だからあくまで受動的に私はここまでやってきた。
でも、改めて他人に言われると何故か心に来るものがあった。
思わず笑ってしまった。

「はは、黄瀬君って意外と鋭いよね」
「え、そうっスか?ってか俺結構酷いこと言ったっスよね。ごめん…」
「いやいや、寧ろ何かすっきりしたっていうか納得した」
「納得?」
「まあこっちの話。黄瀬君のそういう所、いいと思うよ」

何だか今まで変に気負っていた気持ちがふっと軽くなった気がした。
私は何か遠慮していたのかもしれない。
この世界を壊さないように受ける刺激だけを受けてきた。
だから、黄瀬君の言葉を聞いてちょっと変わってみてもいいかもしれないと思った。

「そういえば澪梨っちって呼んでいいっスか?」
「いいけど…変な呼び方だね」
「俺が尊敬したり認めた人にはこう呼んでるんス!中々タイミングが掴めなくて呼べなかったんスけど、これからは呼ぶっス!」

ちょっと真剣な顔をして黄瀬君が言うから笑った。
私は今中学一年生なのだ。
何を年上ぶっていたのだろうか。
私は精神年齢が高いだけの中学一年生に違いないというのに。

「澪梨っちは、大人っぽすぎる。もっと、遠慮しないで欲しいっス」
「うん。善処する」
「…ぜ、?ぜん…?」
「はは、遠慮しないように頑張ってみるってこと」

そう言うと黄瀬君は馬鹿みたいに眩しい笑顔を見せた。
ホント、馬鹿の笑顔っていうのは何でこんなに眩しいんだろう。

「ってか黄瀬君っていうの何か嫌っス!仲良くないみたい!」
「実際そんな仲良くはない…」
「酷すぎる!」
「じゃあ黄瀬。黄瀬で」
「うーん、まあそれでいいっスよ」

黄瀬、黄瀬と呼ぶと一々反応するから面白かった。
これが中学生っていう感覚なんだ。
それが胸を駆け上がって、少しむずむずした。
外は雪が降っていて、年明けがもうすぐそこに来ていた。
二人で駅まで帰る途中、雪を固めに握って頭に投げてやると少し怒られた。





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