18

征十郎から遊びに誘われたが、花宮真という先約がいたからお断りした。
花宮という男はどうにも性格がすこぶる悪いらしい。
最悪だ。
何故こんな男と寝てしまったのだろう。

「ちゃんと来たんだな」
「あなたみたいに性格悪くないので」
「そうかよ」

花宮は少しだけ口角を上げて笑った。
それから私の腕を掴もうとしたので当たり前に避けた。

「普通に腕握ろうとするのやめてくれません?迷惑です」
「ホント可愛くなくなったな、お前」
「そうですかありがとうございます」

花宮の眉間に皺が寄るのを見て鼻で笑った。
私はパスタを食べながら花宮を見た。
花宮はお茶漬けを食べながら私を見ていた。
何だこれ。

「ホント変わってねぇな、お前」
「…そんなに私のこと知ってるんですか」
「ああ。かなり前から知ってるな」
「え、ストーカーとか気持ち悪いですね…」
「違ぇよバァカ!」

花宮を怒らせるのが割と面白いことに気付いた。
この世界では学年が一つ上だということは、前世でもそうだったんだろうか。

「幼馴染だったんだよ。勘違いすんな」
「そうなんですか…」

私に幼馴染がいたとは初めて聞いた。
何せ幼いころの記憶がほぼないのだ。
だから幼馴染だったと言われても全くピンと来なかった。

「え、つまり私って幼馴染と寝たの?」
「そういうことだな」
「消えたい…」

うわあ本格的につらくなってきた。
親も知ってる男とセックスしたとか本当に信じられない。

「ははっ、良い顔だな」

笑っている目の前の男が至極ムカつく。
こんなことが征十郎やさつきに知られたら大変なことになる。
軽蔑の目を向けられるだけじゃ済まないだろう。

「安心しろよ。誰にも言うつもりねぇから」
「人の弱みに漬け込むのが生きがいみたいな顔してるのに意外です」
「好きなだけ言いやがってテメェ…」

意外と単純な男なのかもしれないな花宮は。
面倒だと思っていたけれど案外楽かもしれない。

「まあ、それなら普通に腐れ縁の友達ってことでいいですかね」
「…そうだな」
「じゃあまあ、そういうことで」

ちょうどパスタを食べ終えたので鞄を漁って財布を探した。
この性悪と話したいことは全て話してしまった。
早く帰ろう。
性悪がうつる。
千円札を置いて席を立とうとすると手首を掴まれた。
何のつもりだ。

「俺に付き合え」
「私にメリットあります?」
「ねぇよ」

いつものあくどい笑みを浮かべて花宮はそう言った。
それから店を出て、取りあえず手を離させた。
何かヤバい所に連れていかれるのかと思ったが、普通に買い物だった。
本屋に行ったり服を見繕ったり。
そしてバスケの備品も。

「よぉ花宮。奇遇やなぁ」
「チッ…」

花宮の胡散臭い先輩がそこにはいた。
改めて見たけど本当に詐欺師みたいだ。

「胡散臭いとか澪梨ちゃん酷いわぁ」
「何この人こわ…」
「そんなん言わんと仲良くしてや、澪梨ちゃん」

凄い仲良くしたくない。
性悪だけじゃなくて胡散臭さまでうつったらたまったもんじゃない。

「ごめんなさい急用を思い出したので帰ります」
「嘘ついてんじゃねーよバァカ!」
「チッ…」
「舌打ちされてもうたわ」

ありきたりな嘘じゃ騙せないか…
でも何とかしたこの場を離れたい。
困ったな。
でもまあ、今日一日だけなら我慢するしかないな…

「備品買うんだろ。早くしろよ」
「言われなくてもそうします。早く帰りたいですから」
「このクソアマ…!」
「はは、仲ええんやなあ二人とも」

どこをどう見たら仲良いと思えるんだろうか。
どう考えてもいがみ合っている様に見えると思うんだけれど。
というか実際にいがみ合っている。
それからは三人で店を回ったりした。

花宮を今吉さんと共にいじり倒すのは楽しかった。
一々反応する花宮が面白くて笑った。
そんな感じで三人で適当に過ごした。
最初は最悪だと思ってたけど、悪くない日だった。






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