19

年が明けた。
もうすぐ新学期が始まる。
三が日は寝て過ごす予定だったが、それを遮るような連絡がやってきた。
征十郎たちから初詣のお誘いがやってきたのだ。
一年生達で学校近くの神社に行くらしい。

急いで顔を洗って準備をした。
お母さんに気合入ってるとか言われたから何か恥ずかしくなった。
ブーツを履いて外に出た。
前よりも厳しくなった冷気に身が震えた。

「あけましておめでとう」
「ああ。あけましておめでとう」
「澪梨ちゃん〜!」

さつきに抱き付かれた衝撃で餅を吐き出しそうになった。
危ない…

一人ひとりにあけましておめでとうを言って軽く頭を下げた。
紫原君は相変わらずお菓子を食べていた。
緑間君はいつも通り変な物を持っていた。
青峰君の黒さも通常運転だった。
灰崎君は予想通り来ていなかった。
さつきは珍しく髪を下ろしていた。
征十郎は変わらず優しい笑みを浮かべていた。
この当たり前の風景に何故かふと安心してしまった。

「何を笑っているんだ?」
「え、私笑ってた?」
「ああ」
「楽しいなって思ったからかも」

そう言うと全員が少し目を見開いた。

「…何か言いたそうな顔してるけど」
「意外だと思ったのだよ」
「そうだね。澪梨がそんな事を言うのは初めてだと思ってね」
「澪梨ちん楽しいの〜?」
「うん。楽しいらしいね」

自分のことなのに他人事のような言葉が出た。
荒んだ生活を送って来たからか、こうやってただ何も考えずに友達と過ごすことが楽しいと感じる。
きっといつか忘れてしまうだろうこんな日々を、私は多分忘れたりしないだろう。

「それなら誘ってよかった」
「うん。ありがとう」

征十郎が笑みを深めていた。
何か恥ずかしくなったから征十郎の顔を見るのはやめて歩き始めた。
紫原君に飴をあげていると緑間君がラッキーアイテムをくれた。
鮫の尻尾のキーホルダーだ。
何てシュールな…

「…緑間君ってホント残念だね」
「は?!心外なのだよ」
「顔は凄い綺麗なのに…」
「中身が残念だと言いたいのか」
「分かってるじゃん」

緑間君がぷんすか怒っていたから取りあえず飴をあげといた。
他のみんなが口を押えて笑っていた。
それから神社に向かって初詣をした。
平穏と、それから学生生活が楽しくなるように願いを込めた。
それから肌が白くなること、髪が綺麗になること、…数えればキリがない。

「澪梨ちんは何をお願いしたの〜?」
「言ったら叶わない気がするから言わない」
「え〜ケチだね」
「う…」

紫原君の純粋な目で見られて心が抉られた。
でも私は言わないと決めたのだから言わないのだ。
イジワルだとか言われてちょっと凹んだけど言わないぞ。

それから何故かゲーセンに行ってプリクラを撮った。
多分さつきが言い出したことだ。
出来上がったプリクラではみんなの目が大きくなっていて流石に笑った。
青峰君の顔が面白すぎた。
ガングロに可愛い目とか不釣り合いすぎた。
思わず青峰君以外で笑っていると怒られた。

適当に落書きしてみんなで分けた。
スケジュール帳にでも挟んでおこうかな。

「どっかで食べてこーぜ」
「いいね!」
「そうしようか」

ダラダラ適当に遊んでいたら日が暮れてきた。
緑間君のためにクレーンゲームで変なアイテムを取ってあげたりした。
わりかし喜んでいたから微笑ましくなった。
近くのファミレスに入って適当に食べた。
全部適当で、行き当たりばったりだったけど楽しかった。
こんな感じがずっと続けばいいのに、何て柄にもなく思った。




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