20

「本当にびっくりしたよ」
「はい。だから予告しといたんです」

黒子君が一軍に昇格になった。
これには私もびっくりした。
まさか影の薄さをこんな形で利用できるとは。
多分征十郎あたりが助言でもしたんだろう。

「やっと澪梨さんに追いつけました」
「うん。待ってたかも」

そう言うと黒子君は小さく笑った。
それから黒子君は一軍のみんなに混ざって練習を始めることになった。
そして早速吐いていた。
予め準備しておいた物を持って行って黒子君の看病に向かった。
少ししか時間は経っていないのに、何だか懐かしいと感じた。
冬の冷たさが体に染みる。
だけどそれも悪くないと思えるのだ。

「菅田」
「どうしましたか」
「次の休みに今度買い物付き合って欲しいんだけど」
「いいですよ」

休憩中に虹村先輩に話し掛けられた。
バスケ関連の買い物だろうか。
虹村先輩から誘われるだなんて珍しいこともあるな。
そんなことを思っていると灰崎君が肩に腕を回してきた。

「澪梨ちゃんデートかよぉ〜やるなぁ!」
「灰崎君の冷やかしって小5で止まってるよね可哀想」
「酷ぇ!」

灰崎君がぎゃんぎゃん騒ぐので適当にあしらうと更に騒いだ。
最近灰崎君に絡まれる。
彼は暴力行為が目立つ素行の悪い男だ。
優等生と言われてる私とは正反対の立場にあると言えるだろう。
それでも私と私と仲良くやれているのは不思議だと自分でも思う。

「おつかれ」
「…おう」

ボトルを差し出すとにやりと笑って素直に灰崎君がそれを受け取った。
多分私は彼のこういう所が好きなんだろう。
汗と制汗剤の匂いが心地よい。
練習が終わると、外はもう真っ暗で星が綺麗に輝いていた。
さつきにまた問い詰められてちょっと困った。
でもまあ、それも楽しく感じた。










薄ピンクのコートに黒のショートブーツを履いて家を出た。
これから先輩に会うのだと思うと緊張した。
異性からの急な接触に弱い私にとって、虹村先輩は天敵ともいえる。

「わざわざ休みの日に悪いな」
「…気にしないで下さい」

丈の長いグレーのチェスターコートを着た先輩から目が離せなくなった。
背が高いから長いコートがよく似合う。
実年齢は10も離れているのに…
普通に恥ずかしい。
何中学生に見惚れてるんだ私は。

「実は、妹のプレゼントを一緒に選んで欲しいんだよ」
「そうだったんですね」
「女の趣味が分かんなくていつもまともな物やれてねーからさ…」
「…精一杯選ばせてもらいます!」
「おう、頼んだぜ」

先輩が爽やかに笑うからちょっとドキッとした。
妹さんのこと、大切にしてるんだなあ。
この人は部活ではいい先輩をして、家ではいいお兄ちゃんなんだ。

雑貨店に入ったりアクセサリー店に入ったりと一通り見て回った。
控えめに私の後ろについてくる先輩は何だか面白かった。
可愛いアクセサリーを見ても少し首を傾げる先輩は少し可愛らしい。

「これとかどうですか?」
「控えめだけど可愛いな」

ネックレスだとかイヤリングだと無難な気がしてブレスレットを選んでみた。
ゴールドのチェーンに小さいパールが付いている、ちょっと大人っぽいデザインだ。
値段も中学生が手を出せる範囲内。
どうやら気に入ってもらえたみたいでよかった。
先輩がそれを買っているのを見て、いいお兄ちゃんだ…としみじみ思った。

「菅田に頼んで正解だったな」
「ありがとうございます」

それから近くのファミレスに入ってご飯を食べることとなった。
さりげなくソファーを譲ってくれて凄いと思った。

「菅田ってやっぱ赤司と付き合ってんのか?」
「付き合ってないですよ…もう耳にたこができるぐらいその質問聞きました…」
「そうなのか。名前で呼び合ってるし、菅田といる時の赤司って雰囲気が柔らかくなってる気がしてたからよ」
「色んな重圧を抱えてる征十郎が私の前ではちょっとでも気を抜いてくれればな、って思ってるだけです。副キャプテンをやっているし、それに征十郎の家は一般家庭じゃあないですから」
「そうだな…これからも赤司の支えになってくれよな。多分それを出来るのは今のところ菅田だけだから」
「はい。そのつもりです」
「ありがとな。…っていつまでお前等は俺達の後付けてんだ?!!」

虹村先輩が急に後ろを向いたかと思うと、そこには髪の派手な集団がいた。
まさかずっと付けられていた…?
ピンクに青に緑に紫、そして赤。
虹村先輩がみんなに何か言っていて、みんなが反論していたけれどよく頭に入ってこない。
今征十郎について語ったことを全部本人に聞かれてたってこと?
恥ずかしい…なんていうサプライズなの…
私の前では気を抜いて欲しいとか、何言ってんだって感じだよねごめん征十郎…
結局その流れでお店を出ることになった。
そしてそのままなるべく自然にさよならを言ってお店の前でみんなと別れた。

何となく征十郎の顔を見ることが出来なかった。
ぽっと出の私にこんなことを思われているなんて嫌かもしれないと思うと、話し掛けることが出来なかった。
征十郎の中での自分の立ち位置がよく分からなくなってちょっと悲しくなった。



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