初めての期末テストを一週間後に控えていて教室内はいつもより緊張していた。
私には関係のないその空気に懐かしさを感じた。

「菅田さん」
「何?」
「お昼一緒にどうかな」

昼休み、いつも一緒にお昼を食べている友人達に購買に向かう旨を伝えていると赤司君に声を掛けられた。
赤司君と話したことは一度もない。
どういう風の吹き回しだろうか。

「いいよ。購買行ってもいい?」
「ああ。構わない」

友人達に断りを入れて、赤司君と二人購買に向かった。
友人たちがきゃあきゃあ言っていた。
可愛い。

どうやら赤司君は有名人のようだ。
廊下を歩いているだけで視線が刺さる。
好奇心を隠そうともしないその視線に少し顔が曇る。

「赤司君が私に何の用かな」
「菅田さんは二軍と三軍のマネージャをやっているだろう?」
「うん」
「一軍の夏合宿に来てほしいんだ」
「いつ?」

赤司君の赤い瞳に射抜かれている様でくすぐったい。
私より少し背は高い彼の顔はまだ幼い。

「8月の初旬だ」
「いいよ」
「すんなり了承するんだな」
「理由とか聞いた方がよかった?」
「特に求めてはいないが、何故そんなにあっさり了承したのかは気になるな」
「夏休みまだ予定ないから」

私の返答に赤司君は目を少し大きく開けてから笑った。
暇だから参加するのだ。
逆に言えば暇でなければ参加などしない。
二度目の中学生なのだから与えられる刺激は積極的に受け止めてやろう。

「こんな理由じゃダメかな」
「いや、十分だ」
「それならよかった」
「また詳細が決まり次第連絡する」
「あ、じゃあLIME教えて」
「わかった」

連絡先を交換していると購買に着いた。
一年生から三年生までが入り混じった空間にいつも少し圧倒される。

「用事は終わり?」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、また今度」
「お昼を一緒にどうだ、と俺は誘ったんだが」
「そうだったね。じゃあ学食食べようかな」
「俺もそうする」

赤司君と学食に並んだ。
それからは世間話をした。
赤司君が私のことを以前から知っていることには驚いた。
実力テストで私の名前が彼の名前と並んでいたのを見たらしい。
ということは赤司君も満点だったんだ…。
見に行かなかったから知らなかったけど、彼はやはり至極頭がいいらしい。
彼より十数年はアドバンテージがあるのに負ける訳にはいかないと少し思った。

「菅田さんは表情を出すことが少ないね」
「それはよく言われる」
「俺もたまに言われる」

顔を見合わせて少し笑った。
前世?では研究職だった。
だから人と接することも少なくて私の表情筋はどんどん死んでいった。
死んだ表情筋というのは中々生き返らないのだ。

ご飯を食べて教室に戻った。
その間も赤司君には常に視線が刺さっていた。
赤司君はそれを気にも留めない様だった。
きっと常にこういう視線に晒されてきたんだろう。
そう思うと、彼もやはり苦労してきたんだと思わざるを得ない。

「今日はわざわざありがとう。またね」
「ああ、またな」

赤司君は少し微笑んだ。
中学一年生にしては落ち着いた人だ。
この12年間で培える人格とは思えなかった。
面白いなと純粋に思った。




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