心なしか前より肌が白くなってきた気がする。
美白化粧水のお陰かな…やったぜ。
期末試験が終わった日の放課後、私は呼び出しをくらっていた。
下駄箱に場所と時間が書かれた紙が置いてあったのだ。
女の子特有の可愛らしい字だった。

「は〜!やっと試験終わったっスね!」
「そうだね。お疲れ」

黄瀬君が隣で伸びをしている。
私はいそいそと荷物を纏めていた。

「菅田さんもお疲れっス!これからバスケ部っスか?」
「うん。でもちょっと用事あるからそれ済ませてからだね」
「そうなんスか。俺も何か部活入ろっかな〜」
「黄瀬くんって運動神経あるから何でもできそう」
「違うんスよ。俺、見たものを大体真似出来るだけっス」
「それはそれで凄いね。まあ、バスケは面白いと思うよ。考えてみて」
「考えとくっス」

黄瀬君が綺麗な笑みを浮かべた。
私はぎこちなく少し笑った。
少し遅れる旨を二、三軍に伝えてもらうよう赤司君に頼み、私は荷物を持って教室を出た。

待ち合わせ場所は校舎裏。
教室からは少し時間がかかる。
それに人気のなく日陰の多い場所だ。
靴を履き替えて少し速足で向かった。

「ごめんなさい、少し遅れて」

そこには十人程度女子がいた。
雰囲気からして三年生と二年生が主で、数名一年生がいる。
以前私にマネージャーをやらないかと誘った女友達もその中にいた。
彼女たちの元へ向かうと鋭い視線を受けた。
先輩らしき女の子が私の方に一歩近づいた。

「お前、一年生のくせに黄瀬君に近付いてんじゃねぇよ」
「確かに黄瀬君の連絡先は知っていますけれど、試験範囲の話しかしていませんよ。見ますか?」
「そういう話じゃねぇんだよ!黄瀬君と普通に友達やって抜け駆けすんな!」
「抜け駆けと言われましても…私は別に黄瀬君のファンじゃないのでそれはあなたの認識違いです。でも私のことは黄瀬君の友達と認識してくれているんですね」

丁寧に応対していると先輩が怯んだ。
この程度で怯む所が中学生らしい。
しん、とした空気が流れる。
その静けさを消すように他の女の子も私に近付いて口を開く。

「それにお前赤司君にも媚び売ってるだろ!」
「媚びは売っていませんよ。私は二軍と三軍のマネージャーなので接触もほぼないです」
「前一緒にご飯食べてる所を色んな奴が見たんだよ!」
「あの時は赤司君から誘われて、それを断る理由もないので受けただけです。合宿の話や勉強の話をしましたよ」

彼女たちは完全に黙ってしまった。
私は彼女たちの間違いを少し教えただけなのに。
それにしても黄瀬君も赤司君もこんなに女子からの人気が高いんだな。
それなりに人気なのは知っていたがここまでとは。
赤司君も黄瀬君も大変だな…

「とにかく!黄瀬君にも赤司君にも近寄らないで!」
「彼等にとってあなた方って何なんですか?」
「…え?」
「赤司君も黄瀬君も一人の人間ですよ?彼等にだって友達はいますし勉強だって苦労します。あなた方はそんな普通の生活を制限しようとしているんですよ?まだ彼等の母親が私にそう言って来るのならわかります。でも、あなた方って彼等の母親でもないし、あなた方は一体彼等にとってどのような存在なんですか?」

彼女たちが自信を持ってこんな行動に出たことに対して正直感銘を受けていた。
彼女たちは彼等に恋愛感情もしくは崇拝的な感情を抱いている。
そんな一つの感情が人間をここまで突き動かすのか。
でも私とワンナイトラブをした相手は私とセックスしたいという欲だけで人を襲うことが出来ていたんだ…
何でこんな時にあんなことを思い出さなくちゃいけないんだ。
ちくしょうふざけんなよ。
目の前の女の子たちは全員黙っていた。
やってしまった行動はもう変わらないのだから何か言い返せばいいのに。

「彼等が選んだ友人に対して皆さんがこういったことをするということは彼等のことを信頼していないと同じことですよ。彼等の事を信頼していないからこうして不安になって攻撃的な行動に出てしまうんだと私は思います」
「そ、そういう訳じゃない…」
「では彼等のことを信頼して皆さんが見守ることが彼等のためになると思います。彼等だって頭が悪い訳ではありませんし、顔や肩書だけで近寄る女を相手にすることなんてないですよ。友人ぐらい考えて作っているはずです」

彼女たちの顔には困惑が浮かんでいた。
自分たちの行動が間違っていたと思い始めているらしい。
本当に後先考えずに行動したんだな。
中学生らしい突発的な行動に少し親心のようなものを抱いた。

「何か反論があれば受け付けています」
「…」

彼女たちは全員少し下を向いていた。
下唇を噛んでいる子もいた。
そんなに悔しがったりしなくてもいいと思うんだけどなぁ…

「皆さんが美しい行動をとれば彼等が自慢出来るようなファンにもなれるんじゃないかと私は思いますよ」

私なりの最大限のフォローであり、正直な感想だった。
彼女たちは驚いた様に私を見ていた。

「部活があるので失礼します」

頭を下げてから最初に私に話し掛けた先輩を見てそう言うと、彼女は少し泣きそうな顔をした。
校舎裏から出ると太陽が強く照っていた。
ジャージを着ていてよかった。


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