東卍の紅一点




顔も似てる。性格も似てる。二人で並んでいるとよく周りから双子みたいと言われた。
一緒にいると楽しくて、悪戯が大好きな私達はよくシャレにならない悪さをしては、その度にケンちゃんや圭介にこっ酷く叱られた。今思えば完全に悪友だった。


黒龍ブラックドラゴンの縄張りに知らずに入って、ちょっとしたことで揉めてシメられていた私を、偶然通りがかって助けてくれたのは一虎だった。それから一虎は私を庇ってたった一人で黒龍ブラックドラゴンとやり合って、そんな一虎を守るために“東京卍會”は創られた。
一虎は、黒龍ブラックドラゴンとやり合ってる理由を、絶対にマイキー達には話さなかった。


「うっうっ…かずとらぁ…ごめっ、ごめんねっ…」
「…いちいちこんなことで泣くなよ」
「だってっ、私のせいで、一虎がっ…」


止めたくても止まることのない涙を乱暴に手で拭っていると、全身ボロボロで至る所から血を流している一虎に手を掴まれて、ハッとして視線を合わせる。


「そんな乱暴に目擦るなって」
「だって涙止まんないんだもん…」
「…俺はさ、俺が自分自身でオマエを守りたいと思って黒龍ブラックドラゴンとやり合ったわけ。だからさ、そこは泣くとこじゃなくて、笑って“ありがとう”って言うところだろ?」
「……」
「ンだよその目」
「…いや、一虎って意外とかっこいいところあるんだなあって思って」
「あ゛?むしろかっこいいとこしかねーだろ」
「そ、そうデスネ」
「で?」
「で?」
「ありがとうは?」
「…私を守ってくれて、ありがとう」
「ん。どーいたしまして」


優しく目を細めて私の頭をぽんぽんする一虎にぎゅーって抱きついた。
優しくて、破茶滅茶で、時より寂しそうな瞳をする一虎のことが、大好きだった。大切な友達だった。ずっとずっと、二人でバカみたいに笑い合っていると信じていた。



ーーあの日までは。



あの日。一虎は、私の父親代わりで、兄のようだった大切でかけがえのない人を、殺した。


許せなかった。許したくなかった。一虎を殺して自分も死のうと何度も思った。夢で何度も何度も一虎を殺した。そして目が覚めた時、私はいつも胸が張り裂ける思いがして、涙が溢れた。
真一郎くんはもうこの世にいない。二度と私に笑いかけることもなければ、叱ってくれることもない。大好きな真一郎くんは、もうこの世には存在しない。それなのに、私は。私は…一虎のことを心の底から憎むことができなかった。そんな自分に虫酸が走って、自分自身を許することができなかった。だから、一虎を殺したら、私も死のうと思った。そう誓っていた。


そんな私をずっと宥めてくれた圭介。
共に支え合ったマイキー。


だけど時より。どうしようもないくらいの感情に、押し潰されそうになる時があるの。




一虎に、俺たちずっとダチだからなっ!とくしゃくしゃの笑顔で言われた時、すごくすごく、嬉しかった。嬉しかったんだよ。


ねえ、一虎。


どうして?











ゆっくりと意識が浮上して、気付いたら涙が頬を伝い、ぽたぽたとシーツに染みを作っていく。
部屋を見渡すとまだ薄暗く、携帯を手に取って開くと、人工的な光が眩しくて目を細める。
時刻は深夜の3時過ぎだった。
隣を見るとすーすーと規則正しい寝息を立てているマイキーがいて、その手には使い回したタオルケットが握りしめられている。
マイキーは、酷く脆くて、弱い人間だと思う。
そして私も、同じくらい、脆くて、弱い人間だ。



そっと立ち上がって、ゆっくりと脚を進める。
静まり返っているリビング。
ママは、私よりもきっと、彼氏の方を選んだ。
私はママにとって、邪魔な人間なのだろうか。
産まれてきてからずっとずっと、迷惑ばかりかけてきた。
私がいなくなることが、ママにとっての親孝行になるのかな。


頭がふわふわしていて、自分自身が、よくわからなくなる。


寂しい
苦しい
悲しい
孤独


今、死んだら、真一郎くんに会えるのかな
ふと、そんなことを思って、台所にしまってある包丁を手に取ろうとした瞬間、ふわりと後ろから包み込むように抱きしめられて、その手がぴたりと止まる。


「…紗羅」


泣いているような、怒っているような、そんな声で、マイキーは私の名前を呼んだ。


「紗羅」
「……ごめんね、起こしちゃった?」
「紗羅 …」
「うん。なあに?」
「紗羅…いなくならないで」


その声が震えているように聞こえて、そっと後ろをふり向くと、感情の読めない表情のまま、マイキーが私をじーっと見つめる。


「俺の傍から、離れていかないで」
「…夢を、見たの」
「…夢?どんな、夢?」
「懐かしくて…すごく、すごく、幸せで、でも、悲しくて、寂しくて、それで…」
「うん」
「死のうと思った」


マイキーの力がさっきよりも強くなって、その身体が少し震えているのに気がついた。


「俺は…」
「うん」
「俺は、紗羅が存在しているから、生きていけるんだよ」
「……」
「どんなに苦しくても、悲しくても、この世界に絶望しても…紗羅が俺の傍にいてくれるだけで、俺は、この先もずっと、生きていこうって思えるんだ」
「…マイキー」


「何度だって言う」


「いなくならないで。この世界から消えないで。…ずっとずっと、俺の傍にいて」


「うん…うん…ごめんね…マイキー。ごめんね…っ」


二人でぽろぽろ涙を零しながら、ぎゅーとお互いの存在を確かめるように抱きしめ合う私達は、誰よりも弱くて、酷く不安定で、似た者同士だ。

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