東卍の紅一点
私はマイキーを愛している。誰よりも、何よりも。マイキーの全てを独占したいし、マイキーにも私の全てを独占してほしい。本人は無自覚だけど、マイキーは凄く綺麗な顔立ちをしている。おまけに喧嘩は最強で性格はお子ちゃまっていうかわいい一面だってある。いわゆるギャップ萌えというやつだ。そう、昔からマイキーは結構女の子にモテるのだ。
私は、マイキーに恋している女の子が嫌い。大っ嫌い。いなくなればいい、なんてそんな酷いことを常日頃から思っている。マイキーに恋している女の子は、この世界でたった一人、私だけでいい。
きっと私のマイキーへの想いは、愛は、どんな海よりも深くて、どんな宇宙よりも広くて、どんな岩よりも重い。
マイキーは幼い頃から、物凄く強かった。マイキーのおじいちゃんも言っていた、天才だって。それに比べて、私は強くも弱くもなく、平凡だった。私は焦った。このままだと、マイキーはいつか私を置いてどこかに行ってしまう。マイキーは強いから。天才だから。平凡な私は、いつかマイキーの隣に立てなくなる。一緒にいれなくなる。これはもう、直感ではなく確信だった。
マイキーのことが好きなのに。大好きなのに。愛してるのに。ずっとずーっと、マイキーと一緒にいたい。マイキーの隣にいるのは、永遠に私だけでありたい。
そこで私は決意した。
私もマイキーと並べるくらい、強くなろう
王子様に守られるだけのお姫様なんかじゃだめだ。
私はただマイキーと一緒にいるために、それはもう血の滲むような努力をした。毎日ひたすら身体を鍛えて、自分より遥かに身体が大きくて強そうな不良に手当たり次第喧嘩を挑むようになった。たくさんおじいちゃんや真一郎くんに叱られた。マイキーや圭介にはめちゃくちゃ心配された。エマなんか私のことを心配しすぎて泣いてた。
それでも私は強くなるための努力を惜しまなかった。
そして気付いたら、いつの間にか私は自分より遥かに身体が大きくて強そうな不良を何人も一人で倒せるほど、強くなっていた。
小学6年生になったばかりの頃。物心ついた頃から道場のお手伝いをして必死に貯めていたお金を全て使い払って、腰に刺青を入れた。弓矢を持つ天使。“いつかマイキーと結ばれますように”そんな願いを込めて。
今思えば、この頃の私は完全にヤバイ女だった。
マイキーに恋をしたあの日から、私はマイキーの為だけに生きてきた。マイキーマイキーマイキー。頭の中はいっつもマイキーのことばかり。きっとマイキーは、本当の私を知ったらドン引きしてしまう。
だから私はいつも少しだけ、わざと落ち着いた雰囲気を醸し出している。マイキーに、気付かれないように。こんなにも重たい愛を向けられていることに気付いたら、きっとマイキーはーー。
「……マイキー…」
私のことを、嫌いにならないで。
私から、逃げないで。
ぎゅうっと背中を向けて眠っているマイキーに抱きつくと、んぅ…?紗羅…?舌ったらずの言葉と一緒に身体をもそもそと動かしながら私の方を向いて、まだ上がりきれていない瞼のままマイキーは私を強く抱きしめる。
「…どうしたの?ねむれない?」
「マイキーが…っ」
「うん」
「マイキーが、紗羅に背中向けて寝ちゃうから、」
たまに私が甘える時に名前呼びになることを、マイキーは知っている。目を細めて優しく笑うと、そのままマイキーは私の頭をよしよし撫でてくれる。
「俺が背中向けて先に寝ちゃうから、寂しくなっちゃったの?」
「うん…」
「ごめんね。紗羅が寂しくならないように、このままぎゅーってしながら寝ようか」
マイキーの温もりと匂いに包まれながら、瞼をそっと閉じる。
今日は、とても幸せな1日だった。
おじいちゃんとマイキーとエマの笑い声に包まれながら、エマが私のために作ってくれたたくさんのご馳走を食べて、みんなで思い出話をしたり、幼い頃のホームビデオを見て懐かしんだりした。
みんなが「おかえり」と言ってくれて、私は「ただいま」と泣きながら笑った。
本当に幸せだった。幸せすぎて、怖いくらいだった。
だけど同時に、心の奥底に、どうしようもないくらいの寂しさと孤独を感じた。母が私のことを宝だと優しい眼差しで抱きしめてくれたあの愛おしい日々はもう二度と戻ってこないんだと、私は知ってしまったから。だからなのかな。少しだけ、センチメンタルな気分になってしまうのは。
「これからは俺が紗羅のことを守るから。何があっても、絶対に」
私の母に言った時のように、マイキーは力強くそう言った。まるで自分に、言い聞かせるように。
「私もマイキーのことを守るよ。何があっても、絶対に」
このまま、一つになってしまえばいいのに。血液も、心臓も、全てマイキーと同化してしまえば、私達は永遠に離れることができないのに。
「…たまに、羨ましくなるんだ」
「…ん?なにが?」
「俺も、場地のようになりたい。場地のように、紗羅に必要とされて、紗羅のことを支えられるような、そんな、」
「うん」
「紗羅のことを独り占めしたい…紗羅の全てが欲しい。ねえ、お願い。絶対に俺から離れていかないで。紗羅がいなくなったら、俺、」
泣いているような声色に、そっと瞼を上げる。
まるで懇願するような、すがるようなその瞳に、心が高揚していくのが分かる。
嬉しい。マイキーに必要とされて、泣きそうなくらい、嬉しいんだよ。
私がいなくなったらきっと壊れてしまう可哀想なマイキー。私がもしもこの世界からいなくなったら。マイキーは私以外の女の子に恋をして、その子と結ばれて、いつか結婚して、二人の愛の結晶を授かって、きっと幸せに満ちた日々を過ごすのだろう。
そんなこと、許さない。絶対に、許せない。私のことを死ぬまで想い続けて、私のことを想いながら泣き続けてほしい。そんな世界も案外悪くないのかもしれないと本気でそう思っている私は、やっぱりどこか、狂っているのかもしれない。
「私はずーっと、マイキーだけのモノだよ」
そう言いながらその唇にキスを落とすと、マイキーは幸せそうに微笑んでから、ゆっくりとその瞼を閉じた。
「おはよう、マイキー」
「…おはよう、紗羅」
目が覚めてすぐ目の前には愛おしいマイキーがいる。
微笑みながらマイキーの唇にちゅ、と軽くキスをすると、マイキーは嬉しそうにふにゃりと笑って、私を抱きしめながらまた私の唇にキスを落とす。
「かわいい…紗羅…かわいい…すき…」
「ん〜?マイキーまだ寝ぼけてる?」
「寝ぼけてない…」
うそだ。絶対寝ぼけてる。また目瞑ってるし。
マイキー起きてよ〜エマが朝ごはん作って待ってるよ?それに今日はパーちん達と作戦会議する日だよ?大事な日だよ?ねえねえマイキー。聞いてる?早く起きてってば〜。
そんな言葉をかけながらマイキーをゆさゆさ揺さぶってもんぅ…と全く起きる気配がないマイキー。もう、さっきおはようって言ったのに。本当に朝に弱いんだから。仕方ないなあ。マイキーの耳元でそっと囁く。
「圭介と付き合っちゃうよ?」
言った瞬間、ガッと目を見開いて飛び起きるマイキーにクスクス笑う。
「…冗談でもンなこと言うなよ」
「ん〜?もし冗談じゃなかったら〜?」
「場地と紗羅を殺して俺も死ぬ」
「わあ、こわーい」
「言っとくけど俺は本気だからな」
「うん。知ってる」
ムスッとして不機嫌のオーラを纏っているマイキーは、私の後頭部に腕を回すとそのまま引き寄せて噛みつくようなキスをしてくる。息をする暇も与えてくれないような、激しいキス。そのまま食べられてしまいそうだと思った。
「オマエは、俺だけの紗羅だよな?」
「んっ、うんっ、」
マイキーのその瞳には、私だけしか写っていない。ああ、なんたる優越感。
「マイキー!紗羅ー!そろそろ起きて…きゃああああああ!!!」
この後二人してエマに散々叱られたのは、また別の話。
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