東卍の紅一点
いつも突然現れて、いつも必死な顔をしている君は、一体何者なの?
「マイキー君!!」
パーちん達と愛美愛主をどう攻めるか作戦会議をしていると、突然焦った様子で現れたタケミっちにグッと眉を潜める。
「どうした?タケミっち」
「今大事な話してんだ」
「またテメーか」
「引っ込んでろカス」
ハアハアと荒い呼吸のままタケミっちはマイキーを真っ直ぐに見据えて、その口を開く。
「愛美愛主との抗争、止めませんか?」
あ゛?ピキリとこめかみに青筋を立てながらタケミっちを睨み上げる。私の隣に座っているマイキーも、その纏う雰囲気が一気に変わる。長年の付き合いだから分かる。マイキーもかなり、怒っている。
「……は?」
「この抗争は根拠は言えないスけど、誰かが裏で糸引いてるんス」
根拠は言えない?ふざけんな。そもそも東卍メンバーでもない部外者が口出していい案件じゃねえんだよ。
そんなことを思いながらイライラしていると、ぐいっとパーちんがタケミっちの後ろ髪を引っ張りそのままその身体ごと投げ飛ばす。
「痛ってっ」
「テメーふざけてんじゃねーゾ?なあ?パーちん」
「消えろ。これ以上喋ったら殺す」
パーちんとペーやんが怒るのも無理もない。なんなら私も怒ってるし。いや、ここにいるみんなか。パーちんの親友と彼女が愛美愛主にどんな仕打ちにあったのか、タケミっちもあの場で聞いてたよな?それなのになんでそんなことが言えんの?
「で…どう攻めるよ、愛美愛主」
「ダメっす。愛美愛主と抗争はダメっす…東卍はハメられてるんです」
「立て」
あ゛!!?とパーちんがタケミっを思いっきり殴りつけるのを、ただ黙って見ている。
「抗争はダメ!!?根拠は言えねえ!!?じゃあ誰がオレの親友ボコったんだよ!誰がソイツの女レイプしたんだコラ!!!」
「わかんねーっスよ、でもッ」
「タケミっち。お前の話はわかった」
今まで黙って見ていたマイキーが言葉を発して、そっと隣に視線を向ける。
「愛美愛主とヤる」
「!」
「オマエはなんもわかってねえ。
オレがヤるって決めた以上、東卍は愛美愛主とヤるんだよ」
知ってるよ。マイキーが誰よりも仲間想いで、一度決めたら引かない、そんな人だってこと。ずっとずっと、隣でそんな姿を見てきたから。
タケミっちは何を思ったのか、バッと土下座をして涙ながらに大声で叫ぶように言葉を繋ぐ。
「オレ退けないっスよ!!!愛美愛主とヤりあったら東卍は終わります!!!せっかくマイキー君やドラケン君と仲良くなったのに!!東卍が終わるなんてオレ嫌っスよ!!!」
「……私は入ってないのかよ」
「……」
「…いたっ」
ボソッと独り言のように呟いた言葉に、マイキーは眉間に皺を寄せながら軽くデコピンをしてきた。うん。軽くなのにめちゃくちゃ痛い。圭介といいマイキーといい、この二人はやっぱり人間じゃなくてゴリラだった?
「ちっ。ホントわかんねーヤローだな」
また殴りかかろうとするパーちんを、ケンちゃんが止めに入る。
「…何すんだよ、ドラケン」
「…タケミっちが退かねーって言ってんだ。少し愛美愛主調べてみてもいいんじゃねーの?マイキー」
「あ?ケンチン。オマエ、東卍に楯突くの?」
「あ?そういう話じゃねえだろ?」
「そういう話だよ」
「ちょっとマイキー…」
「なに?オマエもケンチン側なの?」
「は?なんでそうなるのよ」
マイキーの冷たく刺すような声に、周りの空気が一気に張り詰める。
そんなピリピリした空気の中で、聞き慣れない声が倉庫内に響き渡る。
「内輪モメしてるトコ悪ぃーんだけどさぁ。“愛美愛主”“愛美愛主”ってよーウチの名前連呼すんのやめてくんねー。中坊どもがよーー」
「?」
「テメーは 長内!!!」
「騒ぐなチンカス」
なるほど。コイツが、愛美愛主の八代目総長、長内信高か。ここに総長が来たということは、十中八九、これから東卍VS愛美愛主の抗争が、始まる。
「…てめええ」
「君ぃ2コ上なんだからよ。手前様って言えよぉお」
「オラァッ」
パーちんのパンチをいとも簡単に避けて顔面にパンチを食らわす長内。やっぱり愛美愛主を仕切っている総長というだけのことはある。
「はい♡所詮中坊レベルぅー」
「パーちん!!」
「“東京卍會”?名前変えろよ“中坊連合”によぉ。
なんか愛美愛主に喧嘩売るって聞ぃてなぁ」
長内がそう言ってパチンと指を鳴らすと、ゾロゾロと愛美愛主の特攻服を着た連中が倉庫内に入ってくる。
ま、コイツが来た時からそうなるとは思っていたけど。
「こっちから出向いてやったワケ♡」
「めちゃくちゃかわい〜〜子ちゃんいるじゃぁぁん♡」
「ヤッちゃうぞヤッちゃうぞ♡」
「踊れよ中坊!!!」
「チャキーーン」
「ンだよヒョロいのばっかびゃん」
「つかマイキーって女に守られてんの?ダッセーー!!」
「マイキーちゃーーん。戦争だぁ♡
中坊連合のマイキーちゃーん♡」
「中坊相手にこの人数で奇襲。イメージ通りのクソヤローだね、長内クン」
「あ!?聞こえねえよチビすぎて」
ハハハハハと愛美愛主の連中が小馬鹿にしたように笑い始めて、チッと小さく舌打ちをすると、「オイ」と長内が私に詰め寄ってくる。
「テメェ今舌打ちしたよなぁ?あ゛ぁん?女のクセに調子乗ってんじゃねぇぞぉ?」
「……あ?」
「オイ、テメェも何さっきからジロジロ見てんだよ?」
「え?…いやっ…」
タケミっちが焦ったようにそう答えた瞬間、長内の拳がタケミっちの顔面に直撃して、「オマエ今見下したな?」「そういう目が一番キライなんだよ」とタケミっちを殴り続ける長内。いやあの流れは完全に私相手だったはずだろ?しれっとタケミっちにシフトチェンジするなよ。はー…とため息を零すと、長内の腕をパーちんがガッと止める。
「テメェの相手はオレだよ、コノヤロー」
「……ッ、だ…めだパーちん、メビウスとモメちゃ…」
ここまできて、まだ愛美愛主との抗争を本気で止めようとしているタケミっちに疑問が湧く。どうしてタケミっちは、こんなにボロボロになってまで愛美愛主と東卍の抗争を阻止したいのだろうか?それに一体なんのメリットがある?
タケミっちが言葉を言い終える前にドッと突き飛ばしたパーちんは、「ひっこんでろ」と吐き捨てて長内の前に立つ。
「パーちんなめんなよ、花垣」
「……ペーやん…」
「パーちんは東卍でもバリバリの武闘派。一人で突っ込んでチーム一個潰しちゃうようなヤツだ。長内なんかにゼッテェ負けねぇ」
「……そういう事じゃないんスよ」
「じゃあどういう事なの?」
「…え?」
「どうしてタケミっちは、そこまでしてこの抗争を止めたいの?それに一体何の意味がある?」
「そ、れは…。詳しくは言えないんスけど、とにかく駄目なんです、東卍は絶対に…メビウスと揉めたら駄目なんだ…」
「タケミっち。黙って見てろ。これはパーの喧嘩だ」
…っ。親友のために、意識がとんでも尚長内に立ち向かっていくパーちんにグッと目頭が熱くなる。ペーやんが慌てた様子で止めに入ろうとするけど、マイキーが「ペー!!黙って見とけっつったよな?」と一喝する。そうだよね、マイキー。パーちんはまだ諦めていない。負けていないんだ。
「……ゴメン…マイキー」
「黙って見とけって…マイキー君ヒドくないっスか!?パーちんもう鼻も折れてるし意識も朦朧としてるしもうダメっスよ」
「タケミっち。黙って」
「紗羅ちゃんもっ、なんで止めないんスか!?パーちん死んじゃいますよ。止めましょうよ!!!」
「なんで?まだあきらめてねえじゃん」
振り返って笑うマイキーの隣に並んで、その手をぎゅっと握る。パーちん。凄いよ、かっこいいよ。今のパーちんは、きっと世界で一番、誰よりも、強い。視界がじわりと滲んで、ぽたぽたと地面に涙が溢れ落ちる。そんな私の目尻を指で優しく拭ってくれるマイキー。ありがとう。大好き。
「オイ!コイツ立ったまま気絶してんゾ!」
ドサッとマイキーの身体に寄りかかるように倒れこむパーちんの背中に、マイキーが優しく手を添える。
「ゴメン…マイキー…オレ…ふがいねえなぁ」
「何言ってんの?パーちん!オマエ、負けてねえよ」
「はああ!?何言っちゃってんだオマエ」
「どこをどう見たら負けてねえんだよ」
「ふざけた事言ってんじゃねえぞ」
「オイマイキー!!!!とりあえず土下座!!!!」
「許さねえけどな!」
「全員全裸で土下座な!?」
「勿論そこにいるかわい〜子ちゃんもなぁ♡」
「おっぱいデカそう〜♡何カップぅ?」
「ガキだからって泣いても許さないでちゅよー♡」
「おしりペンペンしちゃうぞー♡」
愛美愛主の連中の下品なヤジが飛び交う中、ツカツカとポケットに手を突っ込みながら堂々と真ん中を歩くマイキー。
ドンッと長内の前に立つと、「お?ヤんのか?マイキー」と長内が口角を釣り上げる。
「10秒で殺してや」
長内が語尾を言い終える前にマイキーの回し蹴りが直撃し、一瞬にして長内をノシて、辺りはシーンと静まり返る。
「パーちんが負けたと思ってるやつ、全員出てこい。オレが殺す。
東卍はオレのモンだ。オレが後ろにいるかぎり
誰も負けねぇんだよ」
………嗚呼、好きだ。
私はこの人に、マイキーに、全身全霊をかけて、恋をしている。マイキーの為なら、善人にも悪人にだって、なれる気がするんだ。それくらい私はマイキーが全てで、愛している。
ねえもうそろそろ、こんなにも私のハートを奪った責任を取ってくれてもいいんじゃない?バカマイキー。
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