東卍の紅一点



告白されて付き合って、1年経って別れた。
世間じゃこれを“元恋人”と呼び、少し気まずい関係になるらしい。

恋人になったその日にマイキーとキスをした。その1週間後にお互いの舌を絡めあう、少しえっちなキスもした。手を繋いでデートもした。バレンタインデーははじめて手作りのチョコを作って、失敗してぐちゃぐちゃになったもはやチョコと言えるのかも分からないくらいの物体を仕方なく渡したら、マイキーはキョトンとして、そしてすぐに嬉しそうにソレを口に含むと「世界一おいしい」と歯を見せてくしゃりと笑ってのけたのだ。絶対に不味いはずなのに、それなのに。「紗羅が俺のために作ってくれたチョコが不味いわけないだろ?」なんて本当に幸せそうにマイキーが笑うから、私もつられて顔をくしゃくしゃにして笑った。


「マイキー」
「ん〜?なあに?」
「大好きっ」
「俺も紗羅が大好き」


大好き。大好き。物心ついた頃からずっと一緒だった。誰よりも強くて負け知らずでかっこいいのに、本当は誰よりも繊細で脆くて私がいなくなったらきっと壊れてしまうかわいそうでかわいいマイキー。
私にとっても大切で大好きだったマイキーのお兄ちゃんを失って、絶望し生きる希望を失っても、それでも二人で手を取り支え合ってきた。
ずっと、ずーっと私達は一緒。この幸せは永遠なのだと信じていた。それなのに。

付き合って1年記念日。マイキーに「そろそろいい?俺、1年も我慢したんだよ。えらくない?」とそっとベッドに押し倒された。
今からなにをするのかわからないほど私は無知じゃない。恋人同士だからいずれはすることなのも分かってる。分かってるけど、携帯で検索した時に出てきた“初体験 激痛”“処女膜破れる 出血”の言葉が怖くて怖くてたまらないのだ。一人で暴走族潰した時は全く恐怖なんて感じなくて、むしろ楽しくて楽しくてたまらなかったのになんでなんだろう。


「っ、ごめん」


この時、生まれて初めてマイキーを拒絶した。
マイキーは驚いた顔からみるみるうちに表情が消えていって、そして俯きながらこう言ったのだ。


「付き合っていてもなんにも変わらないなら友達のままで良くない?」


この日のことは今でも時より夢に出てくる。悪夢だ。そして目を覚ました時、いつもぽろぽろと涙が頬を伝う。それくらい、ショックだった。ヒュッと喉がなって心臓がバクバク嫌な音を立てて、呼吸すら上手くできない。だけど、なにか言わなくては。なにか。じゃないと、もう友達にすら、戻れなくなる。


「じゃあ友達に戻ろっか」


「うん」と少し間をあけてマイキーが答えて、ベッドから立ち上がるとスタスタとドアまで歩いてそのまま私の部屋から出て行ってしまった。
つい数分前までは、私はマイキーの彼女で、マイキーは私の彼氏だったのに。ばか。ばかばか。私のばか。なんでセックス拒んだりしたのよ。こうなるって分かってたら絶対拒絶なんてしなかった。
この日は一日大泣きして、夜中にケンちゃんに泣きながら電話をかけて、そしたらケンちゃんはすぐに私の部屋まで来てくれた。ずっと朝まで私の話を黙って聞いてくれて、疲れてうとうとしはじめた私を優しく抱きしめてくれた。気付いたらケンちゃんのことを抱きしめながら眠ってしまっていて、目が覚めたらケンちゃんが「スゲー顔」とケラケラ笑って、私は「うるさい!」と笑いながらケンちゃんの頭をぽかぽか叩いた。
あの日のことは今でも感謝してるよ。大好きケンちゃん。




「紗羅。これはなあに?」
「マイキー」
「一人で無茶するなっていつも言ってるだろ?」
「ケンちゃん」


お前が東京卍會のお姫様あ?こんな可愛い顔してすごいでちゅね〜っていきなりおっぱい揉まれてそのまま顔面に蹴りを入れたらどこから湧いてきたのかソイツの仲間達が続々と現れてヤりあった。
いっつもそう。女だから。女だから。女だからなに?お前らその女にボコボコにされてよくそんな口たたけるな?女だからって舐めんなよ。


「コイツら全員高校生じゃん」
「おっぱい揉まれてムカついたから全員ヤっちゃった」
「は?コイツら殺す。100回殺す」
「落ち着けマイキー」
「そういうケンチンも殺気ヤベェよ?」
「おいマイキー。そのあだ名で呼ぶんじゃねえ」


紗羅。とマイキーに名前を呼ばれて振り向くと、チュッと唇にキスをされた。はーとケンちゃんが呆れたようにため息を吐いて、マイキーはにこにこと感情の読めない顔で笑っている。


「紗羅は、俺の」
「うん」
「他の誰にも渡さない」
「じゃあ、マイキーは誰の?」
「俺は、紗羅だけのだよ」
「うん。マイキーは誰にも渡さない」


私達はもう彼氏でも彼女でもない。それなのに、キスも普通にするし手を繋いでデートだってする。世間だと元恋人はそういうことはしないらしい。でも、私とマイキーは、これが普通なんだ。
不確かで、曖昧な関係。
でも一つだけ確かなのは、私は世界で一番マイキーが大好きで、愛してるってこと。

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