東卍の紅一点



「なあマイキー」
「なあに、ケンチン」
「元サヤに戻んねーの?」
「モトサヤ?」
「紗羅と。未練タラタラだろ」
「無理だよケンチン。俺また紗羅に拒絶されたら今度こそショック死しちゃう」
「ふははははっ!あの“無敵のマイキー”がねえ」
「だってさー。1年だよ?1年俺我慢したんだよ。紗羅のこと大切にしたかったから。そんで交際1年記念日に勇気だして押し倒したら…押し返されて…」
「はいはいその話もう何度目だよ」
「ちょっとムッとしてついあんなこと言っちゃったんだよ。でも紗羅が俺のこと大好きなのは知ってたし、友達に戻るのはイヤだって言ってくれると思ったのに…」
「アイツ号泣してたぞ。紗羅はマイキーのこと大好きなんだよ。今も昔もずっと」
「でもよ〜〜ケンチン」
「ちんたらしてると俺が紗羅のことかっさらっちまうぞ」
「エマが泣くよ?」
「男ならビビってねーで好きな女に気持ちの一つや二つぶつけてこい」
「その言葉そっくりそのままお前に返すわ」
「……つーか紗羅遅くね?」
「おいケンチン。話そらすな」
「私がなんだって〜?」


後ろから二人の間ににょって顔を出すと、どら焼きを食べていたマンキーがゴホゴホと咳き込む。大丈夫?と背中をさするとすぐ落ち着いたけど。なんかこの二人の動揺っぷり…怪しい。


「「紗羅」」
「ねえ、もしかして喧嘩でもしてた?」
「あ?ンなのしてねーよ」
「てかお前来るの遅すぎィ。どこで道草食ってたわけ?」


あっ!と思い出してぽんって手を叩くと、二人ともん?と不思議そうに首を傾げる。


「キヨマサが」
「「キヨマサが?」」
「喧嘩賭博してた」
「あ?」「は?」
「男の子、めちゃくちゃボコボコにされてたよ〜」
「いやお前見たなら止めろよ」
「私そういうの興味ないし〜〜」
「ほんっとにお前はなあ」
「二人とも行くの?」
「当たり前」
「お前も行くぞ、紗羅」
「えぇーめんど「行くぞ」はーい…」


マイキーとケンちゃんは優しいなあ。
私は私が大切に想う人以外がどうなろうと別にどーでもいいと思っている。極端な話、生きていても死んでもどっちだっていい。興味ない。私には関係ないし。


「紗羅」
「ん?」
「一口あげる」

ん。と、食べかけのどら焼きを差し出されて、そのままあむってどら焼きを口に含んだ。


「あま〜い」
「美味いだろ」
「うん。美味しい。ありがとう、マイキー」


マイキーとニコニコしながらどら焼きをもぐもぐしていると、ケンちゃんがそんな私達の頭をぐちゃぐちゃに撫で回す。


「仲良しか」
「なんだよケンチン。ヤキモチ?」
「はあ?」
「ケンちゃんのことも大好きだよー」
「ハイハイ」
「俺もケンチン大好きー」
「ハイハイ」
「は?私のがケンちゃん大好きだしー」
「は?俺のがケンチン大好きだし」
「さっきまでの仲良しはどーした。仲良くしろよ」





「オイ。キヨマサ」
「あ?」
「客が引いてんぞー」


誰だ?視界が霞んで良く見えない。全身が激痛で立っているのもやっとだ。でも俺は、ここで絶対にコイツに負けるわけにはいかない。キヨマサくんに勝って、東卍のボス、“佐野万次郎”に会わせてもらうんだ。


「ムキになってんじゃねーよ。主催がよー」


ざわざわ

「金の辮髪。こめかみに龍の刺青…」
「うそだろ!?」
「東京卍會、副総長!!」

「龍宮寺 堅。通称“ドラケン”!」


なんだ、なにがおきてる。急に周りがざわざわと騒がしくなった。
目を凝らして見てみると、背の高い男と背の小さい男と華奢な女の子が此方に向かって歩いてきている。
女の子はブレザーの制服に東京卍會の特攻服を羽織っているけど、まさかあの子も東京卍會なのか?!


「ねえねえ?ケンチン?」
「あ!?そのアダ名で呼ぶんじゃねーよ。マイキー」
「どら焼きなくなっちゃった」
「……」
「ねえねえ?ケンちゃん?」
「次はなんだ。紗羅」
「歩くの疲れたからおんぶして?」
「またか?もう少し頑張れよ。限界がきたらおぶってやるから」


「なんだあいつら?」
「場の空気全然読めてねえ」


バッ


「総長!お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」


まさか、こいつが…!?
ドクンと心臓が大きな音を立てる。


「お疲れ様です!総長!!!」


「無敵の“マイキー”。東卍のボスだ!!!」


あっくんが驚いた顔で口を開く。こいつが、こいつが東京卍會のトップ。佐野万次郎!!?


「マ…マ…佐野君!俺…3番隊の特攻やってます。赤石っす」
「……」
「うっ」
「邪魔。……マイキーは興味ねー奴とは喋んねーんだよ」
「あ…す…すいません」

「……」
「あの赤石くんが何も言い返せない」


東卍の総長がキヨマサくんの前まで来ると、後ろから副総長がドコッとキヨマサくんの腹に蹴りを入れる。


「キヨマサーいつからそんな偉くなったんだー?総長に挨拶する時はその角度な?」
「は…はい!!!」


「はははっ。キヨマサー。ウケる。ダッサー」
「ひ、姫…!」
「ねえみーんな。キヨマサ、ダサくな〜い?笑えるよねえ?」
「「「「「はっはははははは」」」」」
「ねえみんな笑ってるよ?キヨマサのこと、タイマンのくせに武器使おうとした卑怯者だって。かわいそー。でも事実だから仕方ないね?」
「うっ…」


ざわざわ

「黒髪ツインテール。総長の女。姫野 紗羅。東京卍會の紅一点。通称“姫”!」
「うわっ…俺実物見るのはじめてだ…めちゃくちゃ可愛い…」
「おまっばかっ!!総長に殺されるぞ!!!」


は?総長の女ってことは、あの佐野万次郎の彼女ってこと?嘘だろ、めちゃくちゃ重要な人物じゃん!!つーかナオトからそんな情報全く聞いてないんですけど!?!?
そんなことを思ってアワアワ焦っていると、いつの間にか目の前まで来ていた佐野万次郎にずいっと顔を寄せられる。


「あ…」


こっっっえー…!思わずドサッと尻餅をつく俺に、佐野万次郎は「オマエ、名前は?」と問いかけてくる。


「は…花垣武道」
「…そっか…タケミっち」
「へ?タ…タケミっち?」
「マイキーがそう言うんだからそうだろ?タケミっち」
「へっ!?」
「マイキーもうちょっとマシなアダ名つけたら?」
「なんだよ。かっこいいだろ?タケミっち」
「クソださい」
「はいはい言ってろ。……つーかオマエ、本当に中学生?」


後頭部に手を回されて至近距離でそう問われる。思わずギクッとなった俺に向かって、佐野万次郎はにやりと口角を釣り上げながら口を開いた。


「タケミっち。今日から俺のダチ!!なっ♡」
「へ!?」


突然の予想外すぎる言葉に唖然とする。
いやダチって…あの佐野万次郎と!?
佐野万次郎はスッと立ち上がると、じーっとキヨマサくんを見つめてそのまま足を進める。


「オマエが“喧嘩賭博コレ”の主催?」
「は…はい!」


キヨマサくんがそう言った瞬間、ニコッと笑った佐野万次郎が目にも見えぬ速さの蹴りでキヨマサくんの顔面を潰し、そのままガッと髪を鷲掴みにすると「誰だオマエ?」「オイ」と何度も拳で鼻を潰した。ゴッゴッゴッと鈍い音が辺り全体に響き渡り、周りの連中が「キ…キヨマサ」とサーーーと顔が青ざめていく中、佐野万次郎の彼女は「ふわ〜」と興味がなさそうに欠伸をしている。いや今君の彼氏とんでもないことしてますけど!?ドサッと倒れたキヨマサくんの顔はもう見る面影すらない。
そんなキヨマサくんの頭を佐野万次郎は足で踏みつぶすと、「さて」と顔を上げてニコニコ笑う。


「帰ろっか。紗羅、ケンチン」
「ね、マイキー…ケンちゃん…ねむたい…」
「ん〜?紗羅ちゃんおねむなの?ケンチン」
「はあ、仕方ねーなあ。ほら、おぶってやるから」
「ん…」


「“喧嘩賭博”とか下らねー」
「“東卍”の名前落とすようなマネすんなよ」
「タケミっち!またネ♡」
「テメェらボーっとしてないで解散しろー」

しーん

あれが“東卍”のボス “佐野万次郎”!!
そして副総長の“龍宮寺堅”と、ボスの女の“姫野紗羅”とも、偶然だけど出会うことができた。
まだ“稀咲鉄太”とは出会ってないけれど、これはきっと運命を変えるにあたって大きな収穫になるはずだ。
怖いけど!めちゃくちゃ怖いけど…!!
俺が絶対にヒナを守る。そう心に決めたんだ。

















「まい…きー。けん、ちゃん…」
「んー?なんだ?」
「まだ寝てるし。寝言じゃね?」
「…………だいすき…」

((かわいいなあ))

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