東卍の紅一点



「タケミチ君。楽しいねっ」
「う、うんっ」


…かわいー!まじでかわいいっ!学校終わりにかわいい彼女と買い物デートとかなんなの?リア充なの?
12年前…いいっ!正直戻りたくねえ。ずっとここにいたい…。

ニコニコしながら服を選ぶヒナを見つめている俺はさぞかし気色悪ィくらいのデレ顔であろう。
でも今は周りから何を言われても動じない自信がある。だって!俺は今!ちょ〜〜〜幸せだから!


「あれ、タケミっちとヒナちゃんじゃん」
「…きもっ。なにそのデレ顔」


「!?!!!?」


ウソ…だろ!?!お願いだから誰かウソだと言ってくれ!つーかなんでマイキー君とマイキー君の彼女がこんなところに!?いや普通に考えてデートか?デートなのかっ!?マイキー君だけならともかく彼女も一緒なんて…最悪すぎるだろぉぉぉぉ!!
せっかく今ヒナとデート中なのに、またマイキー君の彼女とヒナがバチバチの険悪ムードになってしまう!

冷や汗を垂らしながらアワアワ慌てている俺の隣で、ヒナが「あっ」と声を上げてマイキー君の彼女の前に立つ。


えっ!?なにしてんのヒナちゃん!?!(危ないよ!?)


「あの時はごめんなさいっ」


へ!?謝罪をしながら頭を下げるヒナに目を見開く俺とマイキー君。マイキー君の彼女は感情の読めない表情のままヒナを見下ろしている。


「“紗羅ちゃん”の大事な人にビンタなんかして本当にごめんなさい…!それと、紗羅ちゃんのこと嫌いなんて言っちゃって…」
「………どんな理由があっても、マイキーのことビンタしたのは許せない」
「っ」
「でも、“ヒナ”の大事なタケミっちを蹴ったのは私だから」
「え?」
「おあいこってことにしよ。だから、この話はもう終わり」


予想外の言葉に、目が点になる。
こんなこと言ったら絶対また蹴り飛ばされるだろうから死んでも言わねえけど、俺はもっと、もっとこう…マイキー君の彼女は話が通じない凶暴な人間だと思っていた。
だけど、意外と根は悪い人じゃないのかもしれない。
だって、良く考えてみたら、あのマイキー君が選んだ女の子だもんな。

ヒナはキョトンとして、そしてすぐに嬉しそうにくしゃりと笑う。(あぁぁぁぁかわいいっ好き!!!)


「ありがとうっ!紗羅ちゃんっ!」
「…声デカい」
「あっごめんね!嬉しくてつい…」
「気にしなくていいよ、ヒナちゃん。コイツ、見かけ通り壊滅的に女友達すくねーから。ヒナちゃんみたいなお友達ができて嬉しいんだよ」


ニコニコしながらマイキーくんがそう言った瞬間、ムーッと頬を膨らませた“紗羅ちゃん”がマイキー君の頬をつねる。


「いてっ」
「見かけ通りは余計ですぅ」
「女友達すくねーのは否定しねえのな」
「うるさいマイキー」


ペシペシマイキーくんの頭を叩く紗羅ちゃんと、ヘラヘラ笑うマイキー君。
そんな2人をニコニコしながら微笑ましそうに見ているヒナと、そんなヒナに見惚れる俺…。


「紗羅ちゃん」
「…なに?」
「携帯のメルアド教えてほしいな」
「え?」
「今度2人で遊びに行こうよ!恋バナとかもしたいしっ!」


花が咲くような笑顔でそう言ったヒナに、キョトンとしたまま固まる紗羅ちゃん。
おーい。とマイキー君が紗羅ちゃんの顔の前で手をひらひらさせて、ハッとした紗羅ちゃんがバッとヒナを見つめる。


「…………い」
「い?」
「………ぃぃょ」
「ふふっ。ありがとう、紗羅ちゃん」


なんか、猫みたいな子だな。
懐かなかった野良猫がようやく懐いたみたいな…。

メルアドを交換しあって、お互いの服を選びあうヒナと紗羅ちゃん。そして少し離れた場所で買い物が終わるのを待っている、俺とマイキー君。
ニコニコしながら楽しそうなヒナと、無表情だけどたまにおかしそうにクスッと笑う紗羅ちゃん。
つい最近バチバチ火花を散らしあっていた2人だとは思えねえ…。女の子ってよくわからん。


「マイキー。これどう?」
「ん〜?いいんじゃネ?」
「テキトーすぎてむかつく」
「だってお前かわいいからなんでも似合うもん」


マイキー君がサラッとそう言って、紗羅ちゃんの顔が真っ赤に染まる。はじめて2人を見た時から思ってたけど、本当に仲良しだなあ。


「マイキー君と紗羅ちゃんってめちゃくちゃラブラブっスよね」
「ラブラブ?」
「それに、マイキー君はかっこよくて紗羅ちゃんはかわいいから見た目的にもめちゃくちゃお似合いだし…」
「ん〜ありがとう。でも紗羅は元カノだけどね」
「俺もいつかヒナとそんな…………え?」
「は?」
「えっ?えーーーーー!!?元カッッッえっウソまじで!?!?」
「うるせーよタケミっち」


顔をしかめるマイキー君に信じられないと目を見開く。ウソだろ!?!元カノって…じゃあ今付き合ってないってこと!?あんなにラブラブなのに!?!?


「いやでもみんな紗羅ちゃんのこと総長の女って…」
「ああ、別れたことごく僅かのヤツらにしか話してねーから」
「えっ!?そ、それはなんで…」
「“総長の女”を奪おうとする命知らずなヤツなんていねーだろ?」


紗羅ちゃんを見ながらそう言ったマイキー君は、ゆっくりと俺に視線を向けて、そしてふわりと微笑んだ。


「俺、今でも紗羅のことが好きなんだ」


…でしょうね!!見てすぐに分かりますよ!!紗羅ちゃんのことを見つめるマイキー君の顔は、思わずコッチが照れてしまうくらいいつも優しい顔をしているんだ。好きで好きでたまらないんだろうなって思う。

それに紗羅ちゃんだって、絶対にまだマイキー君のことが好きなはずなのに。
どうして2人はまた付き合わないんだ?
頭の中でしばらくそんなことをぐるぐると考えていたら、いきなりマイキー君がスッと立ち上がって思わず顔を上げる。


「紗羅」


そこで俺は気付いた。2人が高校生の野郎どもにナンパされていることに。マイキー君はすぐに2人の元に駆け寄って紗羅ちゃんの後頭部に手を回して引き寄せると、そのまま自然な流れでキスをした。


「ごめんね。コイツ、俺のだから」


………はー!?!!ついさっき元カノだって言ってたよな!?なんで当たり前のようにキスしてんの?!意味わかんねー!!!
真っ赤な顔でキョトンとする紗羅ちゃんとヒナ。そして2人をナンパしていた野郎共はブツブツ文句を言いながら店から出て行った。


「大丈夫だった?ごめんね、気付くのが遅れて」
「…マイキー」
「ん〜?なあに?」
「ありがとう。大好きっ」


ぎゅうっと嬉しそうにマイキー君に抱きつく紗羅ちゃんと、そのまま頭をよしよし撫でるマイキー君。
いや待て待て待て。もうこれ普通にカップルだろ?あれか、もしや俺マイキー君にからかわれたのか?いや元カノなわけねーだろ的なヤツだな??うん、絶対そうに決まってる。そうじゃなきゃ説明がつかん!


「タケミチ君」


名前を呼ばれて、ハッとしてヒナを見る。
ヒナの顔は真っ赤に染まっていて、そのままギュッと手を握られて、ドキドキ胸が高鳴る。


「っヒナ!ごめん、俺なんもできなくて…大丈夫だった?!」
「うん。ヒナは大丈夫だよ。ねえ、ヒナも…紗羅ちゃんとマイキー君みたいに、もっとタケミチ君と……ううん、ごめんなんでもない…っ今の忘れてっ!」


バッと顔を逸らすヒナのあまりのかわいさに悶え死にそうになる。なんだこのかわいい生き物は…?あの2人みたいに…ヒナは俺となにがしたいの??やべえ、かわいすぎて愛おしすぎて好きすぎて今すぐにでもヒナとその…キス、したい、かも。
そんな邪な考えが頭を過ぎた時、チュッチュッと唇同士が触れ合う音が聞こえてきて、まさか!?と視線を向けると、マイキー君と紗羅ちゃんが顔の角度を変えながら何度も何度もキスをしていた。

そんな2人を真っ赤な顔のまま見つめる俺とヒナ…。


…いやマイキー君。
マジで紗羅ちゃんが元カノとか冗談だよな??

prev next
back top